- 成年後見人とは認知症等の人に代わり生活と財産を守る人
- 家族・親族が成年後見人になるためには家庭裁判所に申立が必要
- 本人が認知症になる前に後見人を決めておける(任意後見契約)
認知症にはさまざまなリスクがあります。
そのリスクのうちのひとつが、詐欺被害に遭いやすくなることです。
判断能力が衰えた認知症の人を甘い言葉で騙し、財産を奪い取ろうとする悪い輩にいつ狙われるかもわかりません。
認知症の人の財産と平穏な生活を守る制度のひとつとして、成年後見人制度があります。
今回は成年後見人について解説します。
目次
認知症の人は契約行為ができなくなる
認知症の程度にもよりますが、認知症の進行が一定以上にまで進んだ人は契約行為が行えなくなります。
もし買い物や各種申し込みをしても、後に契約者が認知症等の理由により判断能力を欠いていると認められると、その契約は無効または取り消しとなります。
これは認知症になった人への処罰や意地悪のためではありません。認知症になると判断能力や意思決定能力が衰えるため、その契約行為が本人の不利益になってしまうかもしれないからです。
つまり認知症の人が契約行為を行えない理由は、認知症の人の財産や権利を守るためなのです。
契約行為の中には、遺産の相続先を指示する遺言も含まれます。認知症と遺言の関係については以下の記事で詳しく解説しています。
認知症だと相続できない?回避策を解説|成年後見人・任意後見契約・遺言書認知症の人の生活と財産を守る人が必要
私たちの日常は、たくさんの契約行為から成り立っています。
身近な例で言えばスーパーでの買い物も契約行為の一種です。認知症になったからといって買い物のひとつもできなくなったら、たちまち生活に困ってしまいます。
また認知症が進み介護サービスを受けたくなったときにも、契約行為が行えないと介護サービスの申し込みができません。病気になったときの医療行為も同様にできなければ、認知症の人は病院にすらかかれません。
認知症になっても安心して生活を送るためには、信頼できる人間に代わりに契約行為を行ってもらう必要があります。
成年後見人とは
成年後見人とは、認知症や精神障害などの理由によって判断能力が不十分な人に代わって現金や預貯金を管理したり契約行為を代行する人のことです。
例え家族でも、成年後見人を勝手に名乗ることはできません。認知症の人の生活や財産をきちんと守れる人物なのかを家庭裁判所が審議した上で、成年後見人が決定されます。
また、国が定めている法定後見制度には、成年後見人以外にもいくつかの種類があります。
認知症の程度で法定後見の種類が変わる
認知症は症状の進み具合によって、どの程度まで判断能力があるかが異なります。
ある程度までは自分で意思決定ができる認知症初期の人と、ほぼ意思決定能力を失った認知症後期の人では、必要になる後見のレベルも変わってきます。
法定後見制度では、認知症の程度によって法定後見の種類を「後見」「保佐」「補助」の3段階に分けています。それぞれの違いを確認しましょう。
後見人
法定後見人の中でも、認知症の症状が進んで自分では財産等の管理ができない人を対象にした後見人は、そのまま「後見人」または「成年後見人」と呼ばれます。今回の記事においても、この「後見人」について解説しています。
保佐人
軽度の認知症で、日常生活は自分である程度行えるものの、重要な法律行為を行うには不安がある人を対象にした後見人は「保佐人」になります。
後見人に比べて契約の同意・取り消しできる範囲が狭められており、重要な法律行為のみ保佐人がサポートを行います。
補助人
認知機能障害(MCI)は発現しているものの、まだ十分に自分の意思でいろいろな事柄を決められる人を対象にした後見人は「補助人」になります。
保佐人に比べて契約の同意・取り消しができる範囲はさらに狭められ、原則として契約の代行はできません。
補助人が被補助人に代わって契約行為を行う場合には、あらかじめ家庭裁判所に申し立てて代理権を認めてもらう必要があります。
認知機能障害(MCI)について知りたい人は以下の記事を参考にしてください。
認知症は早く気づけば治療が可能|認知症の症状を初期・進行後に分けて解説認知症の前後で後見人のなり方が変わる
後見人を選ぶ時期が認知症になる前か、なった後かでも後見人の種類が変わります。
法定後見
被後見人が認知症になってから選ばれた後見人は「法定後見人」です。
任意後見
被後見人が認知症になる前に、あらかじめ将来の財産管理をお願いされていた人は「任意後見人」となります。
任意後見人については後ほど詳しく説明します。
成年後見人の役割
成年後見人になった人は、被後見人(認知症等の人)を守るため以下3つの役割を担います。
契約の代行
成年後見人は、原則として被後見人のすべての契約行為が代行できます。
契約の取り消しまたは同意
被後見人がすでに行った契約行為でも、その契約が被後見人にとって不利益な契約だと見なされる場合には、成年後見人が契約を取り消せます。契約行為が問題ないときの同意も含まれます。
身上監護(保護)
身上監護(保護)とは、被後見人の生活を維持するために必要な医療・介護・福祉等の手配や、生活全般に係る手助けのことです。
成年後見人は契約行為に関係しない部分についても、被後見人が安心して質の良い生活が送れるように配慮しなくてはいけません。
成年後見人になれる人
成年後見人には特別な資格は必要ありません。被後見人にとって頼れる人物であれば、基本的に誰でもなることができます。
家族や親族以外の人物、または団体(法人)が成年後見人になることもあります。家族や親戚以外の成年後見人では多くの場合、以下のような人物・団体がなります。
専門家 | 弁護士・司法書士・社会福祉士など |
福祉系法人 | NPO法人・社会福祉法人など |
市民後見人 | 自治体等の養成研修を受講して必要な知識を得た一般市民 |
現在では身近な親族が法定後見人になるより、親族以外の人物や団体が後見を請け負う割合の方が多いようです。2019年の厚生労働省調べによる法定後見人の関係性は、親族の割合が23.2%、親族以外の人物や団体の割合は76.8%です。
参考 成年後見制度の現状厚生労働省成年後見人になれない人
以下のような人物は法定後見人にはなれないと、民法847条で定められています。
- 未成年者
- 過去に後見人(保佐人・補助人を含む)を解任された者
- 破産者
- 被後見人に対して訴訟をした経歴がある者、及びその家族
- 行方不明である者
被後見人の親族間で意見の対立がある場合には、上記に該当しなくても親族の後見人が認められないケースがあります。
親族が成年後見人になるメリット
成年後見人になる親族は年々減っていますが、認知症の人の親族が成年後見人になった場合には、以下のようなメリットが生じると考えられます。
認知症の人が安心できる
認知症の人のことを一番よく知っているのは身近な家族や親族です。被後見人が認知症になる前に過ごしていた生活ぶりや好みを尊重し、被後見人にとって望ましい生活が継続できます。
また認知症になり不安な日々を過ごしている高齢者は、いきなり知らない弁護士等に後見人になると言われても不安な気持ちが強くなります。信頼できる親族であれば安心して自分の財産を任せられるでしょう。
経済的負担が少ない
弁護士等に法定後見人を依頼する場合には報酬の支払いが必要になります。
裁判所が定める成年後見人に対する基本報酬は、おおむね月額2~6万円程度です。成年後見人を務める期間が長くなればなるほど費用が増すため、親族が後見人になれば経済的負担が少なくなります。
親族が成年後見人になるデメリット
メリットとは逆に、親族が成年後見人になった場合には以下のようなデメリットもあります。
手続きが煩雑
成年後見人になるには家庭裁判所への申立が必要です。
成年後見人になった後にも毎年の収支計画や業務報告を家庭裁判所に提出する義務があり、事務手続き上の負担は決して軽くはありません。
面倒だからと手続きをおろそかにすると、最悪の場合には成年後見人を解任されます。
家族間トラブルの可能性
被後見人の財産の使い方によっては、後々に家族間トラブルに発展する可能性もあり得ます。
例えば被後見人が快適に過ごせるようにと高額な介護施設に入所させるなど、成年後見人にとってはもっとも良い財産の使い方をしても、それにより被後見人の財産が減少して相続時に揉めるかもしれません。
被後見人の財産の使い方に関しては成年後見人が独断で決めず、他の親族とも相談して決定することをおすすめします。
成年後見人のなり方
認知症の人の親族が成年後見人になりたいと希望する場合は、家庭裁判所に申立てをします。申立てをしてから実際に成年後見人が決定するまでの期間はおよそ4ヶ月です。
成年後見人申立に必要な書類
成年後見人の申立てに必要な書類は以下のとおりです。
なお本人の状況により必要な書類が変わってくるため、あらかじめ管轄の家庭裁判所で確認しておくことをおすすめします。
参考 成年後見等の申立てに必要な書類等について裁判所・後見・保佐・補助開始等申立書 ・本人の戸籍謄本
・本人の住民票
・本人が後見登記されていないことの証明書
・本人の財産目録(預貯金通帳写し・不動産関係書類など)
・本人の収支資料(年金額決定通知書など)
・申立事情説明書等(親族関係図・親族の意見書など)
・医師発行の診断書・鑑定書
成年後見人申立にかかる費用
成年後見人の申立ての際に家庭裁判所に支払う費用は以下のとおりです。
申立手数料(収入印紙) | 800円 |
登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
また本人の認知症の程度や後見の必要性を判断するために必要な場合には、別途鑑定料や診断書発行費用なども発生します。鑑定料の目安は10万円程度、診断書発行の目安は3~5千円程度です。
認知症になる前に任意後見人を決めると安心
上記の説明で、認知症になる前と後では後見人のなり方が変わるとご説明いたしました。
本人が認知症になる前に決めておいた後見人は「任意後見人」と呼ばれます。本人の判断能力が充分あるうちに任意後見契約を結んでおけば、本人がいざ判断能力を失った後には自動的に契約を結んだ相手が成年後見人になります。
後見人候補の調査や審議が必要なくなるため、法定後見制度を利用するよりも手続きがスムーズです。家族の中で後見人になるべき人がすでに決まっている場合には任意後見契約を結んでおくことをおすすめします。
なお、本人の財産管理を行うことだけが目的の場合には任意後見契約ではなく家族信託という方法もあります。ただし家族信託の実行者は財産管理しかできないため、成年後見人の役割のひとつである身上監護(保護)についても事前に取り決めをしておきたいときには不向きです。
以下の記事なども参考にしながら、本人が認知症になる前に任意後見契約と家族信託のどちらを選ぶかしっかり話し合って相談してください。
家族信託とは?相談先の選び方まとめ
今回は成年後見人について解説しました。
超高齢化社会の現代では、認知症になった後にも長い人生が続くことが予想されます。認知症につけこむ悪い輩に騙されて大切な老後資金を失うことがないよう、今から成年後見人についても検討しておきましょう。
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