- 認知症高齢者の日常生活自立度とは要介護認定のために使われる指標
- 認知症高齢者の日常生活自立度はランクⅠ~Mに分類(全部で7ランク)
- 認知症高齢者の日常生活自立度ランクにより認知症の症状は変わる
2023年6月に成立した認知症基本法の基本理念のひとつに「認知症に関する国民の理解を深める」との理念が挙げられています。
日本における認知症高齢者の割合は増加しており、今や認知症はどこか遠くの世界の話ではなく、自分たちのごく身近にある存在です。
認知症基本法がスタートする2024年6月に備え、今のうちから認知症に関する正しい知識を私たちも理解しておくべきでしょう。
今回は認知症になった方の生活がどのように変化するかを理解するため、厚生労働省が用いている「認知症高齢者の日常生活自立度」を例にしてわかりやすく解説します。
目次
認知症高齢者の日常生活自立度とは
「認知症高齢者の日常生活自立度」とは、認知症高齢者がどの程度自立して日常生活が送れているかを判断するために厚生労働省が定めた指標です。
認知症になると判断力が低下し、これまでできていたような日常生活のさまざまな行為をすることが難しくなってきます。
認知症高齢者の日常生活自立度を調べて認知症高齢者の自立度をランク分けすることで、それぞれの認知症高齢者に適切な介護サービス等が提供できるようになります。
障害高齢者の日常生活自立度とは
「認知症高齢者の日常生活自立度」と同様に使われる指標には、もうひとつ「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」があります。
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)とは、肉体の不調や病気で身体機能が衰えた結果、日常生活にどの程度支障が出ているかをあらわす指標です。
同じように高齢者の自立度をあわらす指標ですが、「認知症高齢者の日常生活自立度」は脳機能の衰えによる自立度合いを判断し、「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」は身体機能の衰えによる自立度合いを判断するとの違いがあります。
日常生活自立度は何の目的で使われるか
「認知症高齢者の日常生活自立度」と「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」は、どちらも要介護認定を受けるときに使われます。
要介護認定を受けるときには、まず市区町村の職員や介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を持ち調査員に認定された方が自宅を訪問するなどして聞き取り調査を行います。
調査員は高齢者本人や家族・関係者から日頃の様子を聞いたり、実際に何かの作業をやってもらうなどして、自立度を推定します。その際に調査員が用いている指標が「認知症高齢者の日常生活自立度」および「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」です。
参考 要介護認定はどのように行われるか厚生労働省また日常生活自立度は、ケアプランを立てるときの参考としても使用されたり、医療現場における看護プランやリハビリ計画の作成にも使われています。
日常生活自立度とADLとの違い
高齢者の日常生活自立度を確認するための尺度として「ADL(日常生活動作能力)」が用いられるケースもあります。
ADL(日常生活動作能力)とは、着替えや入浴、排せつなどの基本的動作から、家事や金銭管理などの高次な日常生活の自立度を調べ、介助がどの程度必要かを測る尺度です。
日常生活自立度とADLとの違いは、使われる場所と用途です。
「認知症高齢者の日常生活自立度」は介護サービスの提供範囲を決めるための要介護認定などに使われるのに対して、ADLは医療機関のリハビリ計画作成や、医療ソーシャルワーカーが入院患者の退院後の生活を検討するときなどに使われています。
なお、ADLは「認知症高齢者の日常生活自立度」と「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」のように、脳機能と身体機能に分けた判定はしていない点も違いと言えます。
認知症高齢者の日常生活自立度一覧
認知症高齢者の日常生活自立度は、大きくは5つのランクに分けられます。うち一部のランクではa・bの小分類がされているため、全体的に見ればランクは7種類です。
それぞれの日常生活自立度ランクを以下一覧で確認しましょう。
ランクⅠ | 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している |
ランクⅡ | 日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる (Ⅱa)家庭外で上記Ⅱの状態が見られる (Ⅱb)家庭外で上記Ⅱの状態が見られる |
ランクⅢ | 日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さがときどき見られ、介護を必要とする (Ⅲa) 日中を中心として上記Ⅲの状態が見られる (Ⅲb) 夜間を中心として上記Ⅲの状態が見られる |
ランクⅣ | 日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする |
ランクM | 著しい精神症状や周辺行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする |
日常生活自立度ごとに出る認知症の症状
認知症高齢者の日常生活自立度が変わるにつれ、その方の認知症の症状も変化してきます。
必ずしもランクに応じた認知症の症状があらわれるとは限りませんが、一般的には認知症高齢者の日常生活自立度に応じて、以下のような症状が見られると言われています。
認知症の症状については以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
認知症は早く気づけば治療が可能|認知症の症状を初期・進行後に分けて解説日常生活自立度ランクⅠ
ランクⅠの認知症高齢者には、忘れ物やミスが増えるなどの初期症状が見え始めます。
しかし少しの指示や助言があれば自立した生活が営めるため、ほぼ認知症の症状がないと言っても良い状態です。
日常生活自立度ランクⅡ
ランクⅡでは、症状の出現する場所により区分aと区分bに分けられます。
外出先で道に迷ったり、買い物ができなくなるなどの症状が出現した認知症高齢者は、ランクⅡaに分類されます。
自宅内で薬の管理ができない、留守番や電話対応ができなくなったなどの症状が出現した認知症高齢者は、ランクⅡbに分類されます。
日常生活自立度ランクⅢ
ランクⅢになると認知症初期の高齢者より認知症の症状が進み、以下のような問題行動があらわれるため日常生活にも支障をきたし始めてきます。
《ランクⅢで見られる認知症の症状》
・着替え・食事・排泄が困難になる
・徘徊する
・大声を出す・奇声をあげる
・火の不始末
・不潔行為・性的異常行為が見られる
日中を中心に上記の症状が起きている場合にはランクⅢaに、夜間を中心に上記の症状が起きている場合にはランクⅢbに分類されます。
日常生活自立度ランクⅣ
認知症の症状として見られる行動はランクⅢと同じです。
症状が出現する頻度が多くなり、常に目を離せない状態になったときには日常生活自立度がランクⅣに分類されます。
日常生活自立度ランクM
日常生活自立度がランクMまで進むと、著しい精神症状や認知症の周辺症状が発生すると考えられます。
せん妄や妄想、興奮、自傷、他害などの問題行動が継続して起こり、精神病院や認知症専門病棟のある老人保健施設等での治療が必要だと判断される場合が多いです。
認知症高齢者の日常生活自立度と要介護度
「認知症高齢者の日常生活自立度」は要介護認定のときに使われると上記でご説明しました。
しかし要介護認定では認知症の進行度合いだけでなく、前述の「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」や、高齢者の家庭状況なども判断材料になるので、認知症だけで要介護度は判断できません。
おおまかな目安としては、認知症高齢者の日常生活自立度がランクI~IIの場合には要介護1~2、ランクIII~IVの場合に要介護3~4と認定される場合が多いようです。
要介護5の認知症状態はI~Mまで広く見られるため、要介護認定の目安にはなりません。
参考 要介護度について栃木県下野市認知症高齢者が要介護認定を受けるときの注意点
認知症高齢者の要介護認定の際には、必ず日常生活自立度を判定するための聞き取り調査が行われます。
しかし「認知症高齢者の日常生活自立度」の調査項目には、認知症の深刻な症状である以下の問題行動は入っていません。
- 幻視・幻聴
- 暴言・暴行
- 不潔行為
- 異食
聞き取り調査の際に上記の問題行動について正しく伝えないと、実際の状態よりも日常生活自立度のランクが低くなる恐れがあります。
上記のような問題行動が見られる認知症高齢者が要介護認定を受ける際には、必ず家族が同席し、調査書の特記事項に記載してもらうようにしましょう。
まとめ
今回は厚生労働省が定める「認知症高齢者の日常生活自立度」について解説しました。
すべての認知症高齢者が適切な介護サービスを受けられるようにするためには、日常生活自立度の正しい把握が必要です。
今や、誰しも認知症になる可能性がある時代です。要介護認定の調査員だけでなく私たちも「認知症高齢者の日常生活自立度」についてきちんと理解しておきましょう。
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