- 被相続人と相続人がどちらも60歳以上の高齢者の相続を老老相続と呼ぶ
- 老老相続はこの30年あまりで急増している
- 現代の老老相続にはいくつかの問題点がある(二次相続の問題・空き家問題など)
- 老老相続で困らないための対策がある
日本人の平均寿命は年々上がっています。
人が亡くなったときには故人が所有していた財産は相続人に相続されますが、日本の高齢化が進むにつれ被相続人・相続人ともに高齢者である割合が大変増加してきました。
被相続人と相続人の両方が高齢者の場合の相続は、一般的に老老相続と呼ばれています。
老老相続は他の相続と比べて、どのような点が問題になってくるのでしょうか。
今回は老老相続について解説します。
目次
老老相続とは
老老相続(または老々相続)とは、相続が発生したときに被相続人(故人)と相続人(財産をもらう人)のどちらもが60歳以上の高齢者の場合の相続を指します。
結婚していた被相続人が60歳以上のときには、法定相続人の配偶者も60歳以上である可能性が高くなります。
そのため老老相続はずっと以前から存在している相続ではありましたが、近年では日本の高齢化に伴い配偶者だけでなく被相続人の子供も60歳以上の高齢者となっている割合が増えているため、近年問題視されています。
老老介護とは
老老相続とよく似た言葉で、老老介護(または老々介護)という言葉があります。
老老介護も老老相続と同じく、近年の日本で問題視されている現象です。
《老老介護とは》
60歳以上の高齢者が同じく60歳以上の高齢者を介護すること
老老介護については以下の記事で詳しく解説しています。本記事とあわせて参考にしてください。
老老介護・認認介護で共倒れにならないために|高齢者同士の介護実態を調査老老相続は増加している
冒頭でもご説明したとおり、日本の老老相続の割合は増加しています。
主税局の調査によると、80歳以上の高齢者が被相続人となった相続は1989年(平成元年)時点では38.9%でした。
しかし1998年(平成10年)にはその割合が46.5%まで増加し、さらに2016年(平成28年)の調べでは69.5%にまで増大しています。
被相続人の高齢化に伴い、相続人も高齢化が進んでいると想定されます。
画像引用:内閣府|財務省説明資料〔資産課税(相続税・贈与税)について〕
日本における相続のおよそ7割が老老相続になっている現実を知れば、老老相続は他人事でなく、自分自身にも7割の確率で直面する可能性があるということが分かるでしょう。
老老相続の問題点
相続人のメンバー内に60歳以上の高齢者が含まれている相続は、何もつい最近はじまったばかりではありません。
それではどうして2022年のいま、老老相続が問題視されているのでしょうか。
以下からは、現在の社会情勢を反映した老老相続の問題点について説明します。
二次相続の問題
二次相続とは最初に発生した相続の最中、もしくは相続手続き完了後に相続人が亡くなって、新たに発生する相続のことです。別名数次相続とも呼びます。
被相続人が高齢者のときには、被相続人の配偶者もほとんどの場合同じく高齢者です。死亡するリスクが若年層よりも高いため、次の二次相続が発生する時期は早いと考えられます。
二次相続の際には一次相続よりも法定相続人の数が少なくなり、また配偶者に対して与えられていたさまざまな税制優遇が適用できなくなるため、相続税が一次相続のときより高くなる可能性があります。
二次相続に関する詳しい説明や、一次相続と二次相続の相続税の違いについては、以下の記事を参考にしてください。
二次相続って何?一次相続時から考えたい有効対策3つを紹介空き家問題
高齢者の相続人が自宅などの不動産を相続しても、すでに相続人が子供の住まいや老人ホームなどの高齢者住宅に転居している場合には、相続不動産は空き家と化してしまいます。
国土交通省の調査によると、空き家が発生する原因の半数以上は相続だと言われています。
画像引用:国土交通省|空き家等の現状について
日本全国で増え続けている空き家の存在は、景観の悪化や治安の悪化だけでなく、老朽化による倒壊被害の可能性などを呼び起こすために近年の大きな社会問題になっています。
相続手続き困難の問題
高齢者になると認知症のリスクや病気のリスクが高まります。
認知症の方は法定相続人に指定されても、自らの意思決定能力が欠けていると判断されるため、遺産分割協議に参加できません。
そのため相続手続きが複雑化したり、相続人にとって不利な条件にも関わらず法定相続にのっとった相続を行う必要があるなど、相続手続き上の困難が生じる可能性があります。
また認知症でなくても、高齢で体が思うように動かせなかったり、病院に入院している方にとっては各種の手続きは大変な作業です。専門家に手続き代行を依頼して、高額な費用がかかる可能性も考えられます。
相続税納付期限の問題
相続税は相続発生から10ヶ月以内に申告納付をしなければいけないため、遺産分割協議もそれまでに終了させる必要があります。
しかし老老相続では相続財産や相続人の確定に時間がかかる可能性があり、各種書類の取り寄せなどにも時間がかかると、納付期限までに申告が間に合わなくなるかもしれません。
さらに遺産分割協議中に相続人の1人が亡くなり、上記で説明したような二次相続が発生すると、遺産分割協議ははじめからやり直しです。
相続争いが発生しない円満相続であったとしても、老老相続はよりいっそう時間との勝負になるのです。
財産膠着(こうちゃく)の問題
そもそも相続とは、故人の財産を家族や身近な方に譲り渡し、財産をもらった方が有意義に活用して良い人生を送れるようにするための制度です。
しかし高齢化の現代では保有財産を下の世代に譲り渡す機会がなかなかなく、資産がめぐらない状態が続いています。
老老介護の増加による資産の膠着(動きがなくなること)も問題視されています。
老老相続で困らないための対策は4つ
上記で説明した老老相続の問題点は、あらかじめ対策を行えばある程度の回避が可能になると考えられます。
ここからは、老老相続がいざ発生したときに困らないための事前対策を4つご紹介します。
生前相続をしておく
生前相続とは、財産を持っている方が生きているうちに財産を第三者へ贈与することです。
財産の贈与には贈与税がかかりますが、上手に生前相続すれば贈与税がかからず、なおかつ生前贈与する側にも節税のメリットがあります。
生前相続しても老老相続が発生することには変わりはありませんが、あらかじめ相続財産をスリム化したり、分割が難しい不動産を整理したりすることで、相続手続きは格段にやりやすくなります。
上手な生前相続のやり方を以下の記事でわかりやすく説明していますので、ぜひ参考にしてください。
上手な生前相続のやり方4選|節税しながら好きな相手に確実な財産譲渡を遺言書を作成しておく
自分がなくなったときに備えてあらかじめ遺言書を作成しておけば、相続トラブルの可能性を大きく減らせます。これは老老相続のみならず、一般の相続でも同様です。
元気なうちに相続財産を整理し、誰に財産を譲り渡したいかをはっきりさせておきましょう。
遺言書の形式は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。 それぞれの遺言形式の違いや、法的に有効な遺言書の作成の仕方については、以下の記事を参考にしてください。
遺産相続の遺言書を作成する方法|無効にしないためのポイントを解説家族信託を契約しておく
家族信託とは家族(親と子など)が契約を結び、財産の管理を相手にまかせる民事信託の精度です。
あらかじめ家族信託を契約しておけば、高齢になった親が認知症などで財産の管理能力を失っても、受託者の子供が親の代わりに相続手続きや相続財産の管理ができます。
老老相続では、いつなんどき相続人が病気や認知症になるかわかりません。後々のトラブルを避けるための家族信託契約は良い方法です。
ただし家族信託は個人が簡単に行える契約ではないため、契約に際しては専門家に相談することをおすすめします。
家族信託の進め方やおすすめの相談先については、以下の記事を参考にしてください。
家族信託とは?相談先の選び方成年後見人を設定する
家族信託を契約する前に高齢の親が認知症になってしまい、家族信託契約がもう締結できない方もいるでしょう。
その場合には、裁判所に成年後見人の申し立てを行ない、来るべき老老相続に備えておきましょう。
成年後見人とは、認知症などの理由により意思決定能力が低下した方に代わり財産の管理をする人のことです。成年後見人の設定の仕方については以下の記事をご覧ください。
認知症だと相続できない?回避策を解説|成年後見人・任意後見契約・遺言書まとめ
今回は老老相続の現状や問題点、老老相続のトラブルを回避するために今からできる対策について解説しました。
高齢化社会のいま、老老相続は誰もが直面する可能性があります。
相続が発生する前に老老相続について理解を深めておき、スムーズに相続できるよう対策しておきましょう。
認知症サポーター。父母の介護と看取りの経験を元にした、ナマの知識とノウハウを共有してまいります。842867
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