- 遺言信託には2つの意味がある(サービス名称・法的な呼び方)
- 遺言信託サービスとは信託銀行等が遺言書の作成支援・保管・実行をするサービス
- 遺言信託サービスにかかる費用は平均150万円程度(財産1億円程度の場合)
- トータルコストと相続トラブルの可能性を考えれば専門家に依頼するのも一案
終活ブームの昨今、自分も遺言を書き残しておこうかと考えている人も多いようです。
しかし、遺言にはいろいろと細かい決まりがあり、法的に正しい遺言書を作成するのは難しく思えます。
遺言信託を利用すれば法律に詳しくなくても遺言書が作れるという人がいますが、果たして遺言信託とはいったい何のことで、普通の遺言とはどこが違うのでしょうか。
今回は遺言信託について詳しく解説します。
目次
遺言信託とは
遺言信託とは、信託銀行等が行っているサービスの一般名称です。
遺言者と信託銀行が契約を結び、遺言書の作成時から実際に遺言者が亡くなって遺言が実行されるまで運用管理を行います。
遺言信託をお願いしておけば、「面倒で大変な相続手続きをほとんどお任せできる」と相続問題が不安な人や企業経営者などが利用しています。
画像引用:一般社団法人信託協会|遺言信託
法的な意味の「遺言信託」
法的な意味で「遺言信託」という言葉が使われている場合もあります。その場合の認識は、以下の条文が元になっています。
(信託の方法)
第三条 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
二 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
この法律は、例えば唯一の相続人が未成年の子だけである場合などに用いられます。未成年の子は遺産を受け取っても自分で管理することが難しく、処分行為にも制限がかかるため、第三者に財産を信託して管理してもらう制度です。
2つの「遺言信託」の違い
信託銀行等のサービスとしての遺言信託と法的な意味での遺言信託を簡単に説明すると、以下のようになります。
信託銀行等のサービス名 | 遺言「を」信託する |
法律上の呼び方 | 遺言「で」信託行為をする |
一般的に「遺言信託」と言えば、多くは信託銀行等のサービス名のことを指します。
そのため本記事でも一般的な例にならい、ここからは信託銀行サービスとしての「遺言信託」のことを説明していきます。
遺言信託サービスは何をしてくれるか
遺言信託とは何かが分かったところで、ここからは信託銀行が遺言信託サービスによって具体的に何をしてくれるのかについて説明していきます。
遺言信託サービスの大きな流れは、以下の3ステージです。
それぞれのサービスを詳しく見ていきましょう。
1.契約直後(遺言書作成のサポート)
遺言信託の契約を取り交わすと、信託銀行は契約者(遺言者)の状況を細かくヒアリングして、どのように遺産相続すべきかのコンサルティングを行います。
遺言の内容が決定すると、実際に遺言書を作成するために各種書類の準備や公証役場との調整を行い、担当者が公証役場まで同行します。ここで作成されるのは公正証書遺言です。
このとき、遺言書を作成するのは契約者本人と公証人である点に注意しておく必要があります。信託銀行の担当者はあくまでも契約者のサポートを行うための同行です。
証人の引受け
公証役場で公正証書遺言を作成する際には2名の証人の立ち会いが必要になります。契約者に適切な証人がいない場合には、信託銀行の職員などの適当な第三者に立ち会いを依頼できます。
2.契約者の存命中(遺言書の保管)
公証役場で作成した公正証書遺言には、原本・正本・謄本の3種類が存在します。
原本は公証役場で厳正に保管され、正本は契約者が死亡するまで信託銀行が保管します。正本を信託銀行が持つことにより、信託銀行は契約者死後の遺言執行人に指定されるべき存在として扱われます。
なお、謄本は契約者本人が保管することが多いです。
定期的な照会
契約者の存命中は遺言書を保管するだけでなく、定期的に契約者の遺言の内容や財産、推定相続人の異動等について照会します。
作成済の遺言書に見直しが必要だと思われる際には、適切なアドバイスにより遺言書の書き換えなども行います。
3.契約者の死亡時(遺言の執行)
契約者が亡くなったとの連絡が入ると、信託銀行は正式な遺言執行人に就職し、保管していた遺言書に基づいて遺言を執行します。
この場合の「就職」は、一般的な雇用契約などとは違います。遺言執行人に指定されて承諾し、その任務に就くことを就職と呼びます。
遺言信託にかかる費用
遺言信託サービスにかかる費用は各信託銀行により異なりますが、一般的には上記のステージ毎に以下の費用がかかります。
- 契約直後→ 30万円~ 80万円
- 契約者の存命中→年間5千円~1万円(遺言書の書き換えなどは別途10万円)
- 契約者の死亡時→最低100万円~遺産総額の2%
仮に契約者が1億円の財産を保有していた場合、最終的に支払うトータル金額はおよそ150万円程度になると考えればひとつの目安になるでしょう。
遺言信託の必要書類
遺言信託に必要な書類も各信託銀行により異なります。
遺言信託サービスの契約書と公正証書遺言書の正本以外には、遺言を執行するために当然知っておくべき契約者の状況を証明する書類が必要になります。
一例として、三井住友信託銀行では以下の書類を必要書類として指定しています。
遺言書正本
戸籍謄本
不動産登記事項証明書
相続財産明細
預貯金・有価証券 その他財産に関する資料
印鑑証明書 等
遺言信託の注意点
遺言に関する面倒を丸ごとお任せできる点が魅力の遺言信託サービスですが、いくつか注意すべき点もあります。
サービスに申し込む際には、下記の注意点をよく確認した上で申し込みましょう。
公正証書遺言以外は不可
信託銀行が保管する遺言書は、原則として公証役場で作成された公正証書遺言のみです。契約者自身が作成した自筆証書遺言は預かってくれません。
また、そもそも遺言内容を誰にも明かしたくないために遺言書形式を秘密証書遺言にしたい人は、第三者の確認が必須となる遺言信託サービス自体が不向きとなります。
遺言書の種類については以下の記事をご参照ください。
不動産登記変更や相続税申告はできない
信託銀行は遺言実行時に預貯金や有価証券の名義変更などは行ってくれますが、不動産の登記変更については携われないため、別途司法書士に依頼する必要があります。
また、相続税の申告も信託銀行は行うことができません。別途税理士に依頼する必要があり、その分の支払い費用が別途発生します。
相続トラブルに介入できない
遺言信託サービスはあくまでも遺言の事務的な執行を目的としたサービスなので、相続人同士でトラブルが発生した際に介入して解決することはできません。
別途弁護士などに相談する必要があり、弁護士への支払い費用等もかかります。
弁護士に相談するのも一案
上記の注意点を読んで遺言信託サービスが自分には不適当だと考えた方には、弁護士、司法書士、行政書士等の専門家を利用した遺言書の作成がおすすめです。
遺言書の作成支援を弁護士に依頼した場合の費用は平均して40~50万円ほどとなり、信託銀行の遺言信託サービスよりも大幅にコストダウンできます。
また相続トラブルが万が一発生したときでも、最初から弁護士が介入していれば解決までの道のりもスムーズです。
コスト面・安全面を考えると、遺言信託サービスにこだわらずに他の支援先も考えて比較するのが望ましいでしょう。
弁護士費用については以下の記事を参照してください。
まとめ
今回は「遺言信託」について、2つの意味を持つ遺言信託の違いと、信託銀行等が行う遺言信託サービスの詳細について解説しました。
複雑で面倒な遺言書作成とその管理をおまかせできる信託銀行の遺言信託サービスは、多忙な企業経営者や遺言書管理が不安な人におすすめできるサービスです。
しかしその反面、信託銀行の遺言信託サービスではできないこともあります。
遺言書を作成しようという人は、個々の状況に応じて最適な手段は何かを多方面から調べて十分に比較しましょう。
行政書士事務所経営。専門は知的財産ですが、許認可から相続まであらゆる業務を行っています。また、遺言執行や任意後見関係を専門とする社団法人の理事もしています。アドバイスや業務遂行でお客様の問題が解決するととても嬉しくやりがいを感じます。行政書士ほか、宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級の資格所持。
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