- 死後離婚は法律用語ではない
- 姻族関係終了届の提出により、いわゆる「死後離婚」が可能になる
- 死後離婚は遺族年金・生命保険・相続の受取に影響はない
- 負担付生前贈与されていた人は弁護士に相談がおすすめ
結婚生活では長い年月を一緒に過ごした伴侶と死別することになる場合があります。
通常、婚姻関係を解消するには離婚届を提出すれば良いですが、離婚する前に配偶者が亡くなった場合、死後に離婚することはできるのでしょうか。
もし故人と離婚できるとしたら、故人やその親族との関係性も抹消されるのでしょうか。そしてその際にはどのような影響が考えられるのでしょうか。
今回は「死後離婚」について、実行した際に相続などで生じる影響を中心に解説します。
目次
「死後離婚」とは
死後離婚とはここ数年で使われるようになった比較的新しい言葉です。2018年10月15日のNHK「アサイチ」の特集「死後離婚のリアル」の放送により一気に世の中に広まりました。
死後離婚とは何か、どのような行為を指すのか見ていきましょう。
法律上の「死後離婚」はできない
実際に死者と離婚することはできません。離婚届は生きている人が出す届出なので、配偶者が存命でないと受理されません。実際に死別した際には、その時点で婚姻関係が自動的に終了となります。
そのため、死後離婚という手続きを取らなくても、生存配偶者が再婚するのに何ら問題がないのです。ただし、民法733条(再婚禁止期間)の規定により、遺された配偶者が女性の場合、死別後100日間は再婚できないとされています。
《それぞれの呼び方》
死亡配偶者:故人のこと
生存配偶者:遺された人のこと
姻族関係終了届により配偶者親族との関係が断てる
それでは死後離婚とはいったい何をするものなのでしょうか。
一般的に「姻族関係終了届の提出」をもって死後離婚がなされるとされています。
姻族とは結婚によって生まれた配偶者の親・兄弟等との関係性のことです。上記の説明のとおり配偶者が死去すると婚姻関係は当然に終了しますが、死亡配偶者の親族との姻族関係はそのまま継続します。
この姻族関係を終了させることができるのが姻族関係終了届です。
なお、姻族関係終了届の提出によって解消されるのは生存配偶者と死亡配偶者親族との姻族関係です。
生存配偶者が受け取れる遺族年金や生命保険金の権利が失われるわけではありません。
「死後離婚」を希望する理由
婚姻時に配偶者やその義両親と折り合いが悪かった場合、配偶者との死別後まで義両親と関りたくないと考えても不思議ではありません。
また義両親の介護をしたくない人や、死亡した配偶者と同じ墓に入りたくないと考える人もいます。
実際には義両親の介護や墓を守るといった行為は、死後離婚に関係なく生存配偶者の自由意思で選択できますが、死後離婚をすることで「義両親の介護やお墓を守らない」という意思が明確になります。
姻族関係終了届を出せる人
姻族関係終了届が提出できるのは、故人と結婚していた生存配偶者のみです。死亡配偶者の親兄弟や第三者が提出することはできません。
また、姻族は生存配偶者による姻族関係終了届の提出を拒否できません。生存配偶者は姻族の了承がなくとも姻族関係終了届を提出できますし、事前の通知も不要です。
姻族関係終了届を出す時期
姻族関係終了届は、配偶者が亡くなった後であればいつ提出してもかまいません。
亡くなってすぐに提出されるケースもありますし、死別後何年もたって、姻族との関係が思わしくなくなってから提出されるケースもあります。
ただし、一度提出した姻族関係終了届は取り下げることができません。配偶者が生きている間であれば同じ相手と再婚すれば姻族関係は復活しますが、死後離婚の場合には復活の手立てがありません。
一時的な感情で姻族関係終了届を出すと思わぬ後悔をする可能性があるため、後ほど説明する提出後の影響などを熟考した上で実行する必要があります。
増えている死後離婚
姻族関係終了届の提出によって死後離婚ができることが認知され始めたのに伴い、実際に死後離婚をする人の数は年々増え続けています。
法務省の戸籍統計によると、死後離婚件数、つまり姻族関係終了届の提出件数は10年前に比べて2倍以上に増加しています。
2009年度 | 1,823件 |
2010年度 | 1,911件 |
2011年度 | 1,975件 |
2012年度 | 2,213件 |
2013年度 | 2,167件 |
2014年度 | 2,202件 |
2015年度 | 2,783件 |
2016年度 | 4,032件 |
2017年度 | 4,895件 |
2018年度 | 4,124件 |
姻族関係終了届の手続き方法
死後離婚(姻族関係の終了)は、結婚するときや離婚するときと同じように各自治体に届書を提出して受理されることによって成立します。
婚姻届や離婚届のように証人もいらないので、手続き方法は非常に簡単です。
参考までに、姻族関係終了届の手続き方法について説明します。
提出先
姻族関係終了届の提出先は、生存配偶者の本籍地・住所地・所在地(一時的な滞在地など) の市区町村役場です。
必要書類(記入例あり)
提出時に必要となるのは以下の書類です。
- 姻族関係終了届
- 届出人の印鑑
- 届出人の戸籍謄本(全部事項証明書)※届出人の本籍地に提出する場合は不要
- 故人の除籍全部事項証明書※死亡事項が記載されているもの
姻族関係終了届は各自治体の市区町村役場で入手できます。様式は全国共通なので、提出先以外の役所窓口でも用紙が入手できます。記入方法は以下のとおりです。
画像引用:春日部市|戸籍の届け出
名字を旧姓に戻すには「復氏届」が必要
日本の家制度は昭和20年の民法改正により廃止されていますので、たとえ姻族関係終了届の提出をしても、死亡配偶者の苗字が名乗れなくなるわけではありません。
つまり、死後離婚しても名字は結婚時のままとなりますので、もし旧姓に戻したい場合は、別途「復氏届」を提出する必要があります。復氏届は姻族関係終了届と一緒に提出できます。
生存配偶者の姓の変更だけであれば手続きは簡単ですが、子供の姓も旧姓に戻したい場合には家庭裁判所に申し立てて許可審判を受ける必要があります。
参考 子の氏の変更許可裁判所裁判所への申し立てが困難であったり、子供にかかる精神的な負担を考えて結婚後の姓をそのまま名乗っている人も実際には多くいますが、その場合は復氏届の提出は不要です。
死後離婚すると相続はどうなる?
上記説明のとおり死後離婚の手続き自体は簡単なものですが、それによる対外的な影響は大きなものがあります。
特に気になるのは、金銭的な面で生じる影響でしょう。
死去によって生じる金銭的な影響と言えば、相続がまず一番に考えられます。
ここからは死後離婚した際に相続はどうなるのかについてしっかり学んでいきましょう。
死後離婚時による相続への影響
まず基本的な考え方として、死後離婚と相続とはまったく無関係であることを覚えておきましょう。
死後離婚(姻族関係終了届の提出)をしても生存配偶者が法定相続人である事実には変わりありませんので、死亡配偶者の財産はそのまま相続できます。
法定相続人に関する詳しい説明は以下の記事を参考にしてください。
マイナスの遺産は相続放棄手続きが必要
上記のとおり相続がそのままされるということは、プラスだけでなくマイナスの遺産も相続されるということです。
死亡配偶者に借金などがあった場合には、死後離婚しても弁済する必要があります。
マイナスの遺産を相続したくない場合には、相続放棄の手続きを死後3ヶ月以内に取らなければいけません。
以下記事の中の「相続財産リスト」を使って、プラスとマイナスの収支を早急に確認しましょう。
子への相続・代襲相続への影響
自分ではなく子供への相続はどうなるでしょうか。
死亡配偶者の財産については、生存配偶者と同様に子供の法定相続人の権利も失われることはありません。
また子供の場合、死亡配偶者の親、つまり子供の祖父母が死去したときに遺した財産も代襲相続で受け取ることができます。なぜなら死後離婚は生存配偶者とその姻族との関係が終了するだけなので、子供と祖父母との親族関係に変わりはないからです。
もし死後離婚により元姻族が気分を害して、子供への代襲相続を除外するような遺言書を作成したとしても、子供は法定遺留分を請求することができます。
遺留分の請求については以下の記事を参考にしてください。
負担付の生前贈与への影響
義両親が将来的な同居・介護を期待して、相続対策の一環として生前贈与を行っているケースがあります。
この場合、死後離婚したことによって契約不履行と見なされ、贈与分の返還を求められることはあるのでしょうか。
結論から言えば、返還すべきかどうかはケースバイケースです。生前贈与に何らかの条件を付ける負担付贈与がどの程度の効力を持つかは、生前贈与の方法や契約書の有無、その他の個々の家庭の状況によって大きく異なります。
実際の裁判所の判例でも返還義務あり・なしの両方の判決が存在し、解釈上の疑義・問題点が各所から指摘されています。
参考 忘恩行為を理由とする贈与の撤回・解除~民法(債権法)改正拾遺御池総合法律事務所死亡配偶者もしくは生存配偶者本人が負担付生前贈与を受けていた場合には、死後離婚を実行する前に弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は近年話題になっている「死後離婚」について解説しました。
死後離婚はいわゆる「縁切り」というマイナスの意味だけでなく、死別後に遺された人が新しい人生に向かって踏み出すための手段でもあります。
しかし死後離婚によって感情的なトラブルや、相続などの金銭的トラブルにつながる可能性もありますので、実行は慎重かつ冷静に、起こり得るさまざまな可能性を考慮してから進めましょう。
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