- 加齢の影響により食事量が減る高齢者が多い
- 高齢者の食欲減退はさまざまな健康障害を誘発する
- 高齢者が食べ物を美味しく食べるためのポイントを解説
人間にとって食べ物とは、人生における大きな喜びのひとつです。
しかし高齢者の中には、その喜びが半減してしまう人もいます。加齢による影響でこれまでの好物が食べられなくなったり、食べ物を食べようとする意欲自体が減退することがあるからです。
今回は高齢者と食べ物との関係について解説します。年を重ねると食事がどのように食べづらくなるのか、高齢者の食欲減退による健康への悪影響を学び、高齢者にできるだけ美味しく食べ物を食べ続けてもらうための工夫を知りましょう。
目次
食べ物に関して高齢者に起こる変化
若い頃に比べて、高齢者は心身のさまざまな箇所が変化してきます。
では食べることに関しては、何がどのように変わってくるのでしょうか。
食べ物や食べることに関して、高齢者に起こり得る心身の変化を確認しましょう。
味蕾の働きが衰える
食べ物の味は、舌の表面にある味蕾(みらい)という部位でキャッチします。
高齢者になると味蕾の中にある味細胞の働きが衰えるため、若い頃と同じ食べ物を食べても味覚が感じにくくなります。
画像引用:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会|味覚に不安をもつ高齢者は増えている!
また加齢による唾液の減少も、食べ物の味が変化する原因です。唾液には食べ物の味を感じやすくする働きがあるため、唾液の分泌量が減ると味蕾の働きが低します。
食欲が減退する
食べ物が美味しいと感じられなくなると、食べようとする気も湧いてきません。
食欲が減退し、食べ物の摂取量が減る高齢者が多いです。
また高齢者は運動の機会が少なくなるため、運動の後の心地よい疲れと空腹感を感じるシーンがほとんどありません。
お腹もすいていない、味もさほど美味しくないとすれば、高齢者の食欲減退もある意味当然です。
食べ物を噛む力が弱くなる
食べ物を噛む力は、70歳以上の高齢者になると10代~30代のおよそ30%にまで低下します。
画像引用:厚生労働省|高齢者がよりよい食事をするために歯科医療にできること
食べ物を噛む力が弱まる原因のひとつは、口周りの筋力が衰えることです。口周りの筋力が衰えた状態を「オーラルフレイル」と呼びます。オーラルフレイルになっている高齢者は、固い食べ物や繊維質の多い食べ物が食べづらくなります。
歯の数が減少していたり、入れ歯の不具合や口内炎・歯周病などのお口のトラブルによっても噛む力が弱まり、食事自体がストレスになる場合があります。
食べ物が飲み込みづらくなる
オーラルフレイルは噛む力だけでなく、食べ物を飲み込む力にも関係しています。
舌や喉にも筋肉があります。口周りの筋力と同じように舌や喉の筋力が低下した高齢者は、食べ物を体内に送り込むための動きがうまくできなくなるため、食べ物が飲み込みづらくなってきます。
なお食べ物だけでなく、水やお茶などの水分についても飲み込みづらくなります。
食べ物に由来する高齢者の健康障害
高齢者が食べ物を美味しく食べられなくなると、食べ物の摂取量が減り、心身にさまざまな悪影響をおよぼしてきます。
食べ物の摂取量が減ることで具体的にどんな悪影響が考えられるのか、以下で確認しましょう。
低栄養・フレイル
食べ物の摂取量が減ると身体の維持に必要な栄養やエネルギーが不足し、低栄養状態になる可能性があります。
低栄養状態になった高齢者は筋力・筋肉量が減少する「サルコペニア」という状態になります。
口周りの筋肉が衰えた状態を「オーラルフレイル」と呼びますが、オーラルフレイルは「フレイル(虚弱)の一種です。サルコペニアはフレイルの大きな要因になるため、食べ物の摂取量が減った高齢者はオーラルフレイルだけでなく、身体全体がフレイルにおちいる危険があります。
低栄養が原因でフレイルになった高齢者は身体全体のエネルギー消費量が低下するため、さらに食欲がうせて低栄養状態になるという悪循環です。
画像引用:健康長寿ネット|フレイルの原因
低栄養やフレイルをそのまま放置すると要介護状態になる可能性が高いため、できる限り避けなくてはいけません。
脱水症状
食べ物の摂取量が減ると、水分の摂取量も減ります。
水分補給は水やお茶などの液体からでしか摂取できないと思っている人が多いですが、実は食べ物の中にはたくさんの水分が含まれています。
食事による自然な水分補給ができなくなると、1日に必要な水分摂取量の半分程度が不足してしまいます。水分が減少した分だけ水やお茶を飲む量を増やさないと、脱水症状になる危険があります。
誤嚥性肺炎
高齢者の食べ物に由来する病気の中でもmもっとも注意しなければいけないと言える病気が、誤嚥(食べ物や水分が気道に入ること)による誤嚥性肺炎です。
肺炎で亡くなる人の97%は高齢者です。その多くは誤嚥性肺炎だと言われており、飲み込む力が弱くなった高齢者には常に誤嚥性肺炎のリスクがつきまといます。
誤嚥は食べ物や水だけでなく、唾液や胃液によっても起こり得ますが、食事の際に起きることがもっとも多いため注意が必要です。
認知症
食べ物と認知症は関係ないと思われがちですが、食べ物を遠因として発症する認知症も存在します。
認知症の原因のひとつが、ビタミンなどの必須栄養素が不足したために起こる欠乏性疾患です。かたよった栄養バランスの食事を続けていると、脳に必要な栄養が行きわたらなくなり認知症を誘発してしまうかもしれません。
認知症の原因は70種類以上もあると言われているので、日頃の生活習慣が認知症を招くケースがあります。認知症の原因については以下の記事で詳しく解説しています。
高齢者の食事で気をつけたいポイント
高齢者が健康で、いつまでも食べ物を美味しく食べられるようにするにはどうしたら良いのでしょうか。
ここからは高齢者の食事で気をつけておきたいポイントを説明します。
食べ物の調理方法を工夫する
食べ物が噛みづらく、飲み込みづらくなってくる高齢者の食事を調理する際には、調理方法も高齢者向けに食べやすく工夫してみましょう。
《噛みやすくするための工夫》
・ご飯は軟らかめに炊く
・食材は一口大、または細かくきざむ
・肉は叩く・切れ目を入れるなどする
・繊維質の野菜は繊維を断ち切り柔らかく煮る
・葉物野菜は葉先の柔らかい部分を使用する
《飲み込みやすくするための工夫》
・食材を煮崩れるほどまで煮る
・食材を裏ごしする・ミキサーにかける
・マヨネーズやヨーグルトなどで和える
・とろみ剤を使ってとろみをつける
栄養バランスを考えた食事にする
上記でも説明したように高齢者は味蕾が衰えるため、これまでとは食べ物の好みが変わってきます。また食欲も減るため、食事は手軽に用意できる簡単なものですませようと考えがちです。
同じ食べ物を食べがちになり栄養バランスがかたよるため、意識していろいろな食材をバランスよく摂取できるように心がけましょう。
以下は高齢者に不足しがちな栄養素と、それぞれの栄養素が多く含まれる食材です。食事作りの参考にしてください。
たんぱく質 | 肉・魚・卵・乳製品・大豆など |
ビタミンB群 | 豚肉・納豆・豆乳・玄米・魚肉ソーセージなど |
カルシウム | チーズ・ワカメ・干しエビ・シラスなど |
カリウム | ほうれん草・サツマイモなど |
鉄 | 小松菜・鶏レバーなど |
亜鉛 | 牡蠣・豚レバーなど |
食物繊維 | 根菜・キノコなど |
調理が難しい場合には、市販の栄養補助食品や栄養補助ドリンク・ゼリーなどもうまく活用してください。
口腔ケアをしっかりする
口内環境が悪化すると思うように食事ができなくなります。日頃から口腔ケアをしっかり行いましょう。
虫歯や歯周病は悪化しないうちに、早めに歯科で治療を受けることが肝心です。入れ歯が合わない高齢者もそのまま放置せずに、快適に食べ物が噛めるよう調整が必要です。
口周りや舌、喉の筋肉を鍛える口腔体操は、噛む力の改善や誤嚥防止策として有効です。オーラルフレイルを予防するために日々の日課にしてください。
参考 オーラルフレイル予防のための口腔体操日本歯科医師会食事の時間を楽しめるようにする
人間、楽しい気分であれば食も進みます。食事の時間を楽しめるよう、ちょっとした気配りをすると高齢者の食欲がアップします。
食卓に花を飾ったり、BGMに好きな音楽をかけても良いでしょう。食べ物も盛り付けを華やかにし、いろどり豊かにすれば視覚から食欲が刺激されます。
しかし、食べ物を美味しくする一番の調味料は「人との会話」です。孤食(ひとりでの食事)は食事の楽しみを半減させ、低栄養やウツ、心疾患のリスクを高めることがわかっています。
家族と同居している高齢者はできるだけ家族と一緒に食事をとる、ひとり暮らしの高齢者でも別居家族や友人との食事の機会を設けるなどして、誰かと楽しくおしゃべりしながら食事できるようにしましょう。
まとめ
今回は高齢者の食事について解説しました。
高齢になるとどうしても食事量が減るため、量よりも質で必要な栄養素を摂取していく必要があります。
自分にできる工夫をして、高齢者家族の健康維持に努めましょう。

終活カウンセラー2級・認知症サポーター。父母の介護と看取りの経験を元にした、ナマの知識とノウハウを共有してまいります。

「そなサポ」は、大切な資産や継承者を事前に登録することで、将来のスムーズな相続をサポートするもしもの備えの終活アプリです。
受け継ぐ相手への想いを込めた「動画メッセージ」を残すことができるほか、離れて暮らす子どもたち(資産の継承者)に利用者の元気を自動で通知する「見守りサービス」もご利用できます。
▶︎今すぐ無料ダウンロード!