- 家族と絶縁しても相続権は失われない
- 対外的に認められる重大事案があれば相続欠格・相続廃除は可能
- 自分の財産を絶縁した家族に渡したくない人がとれる対策を5つ紹介
人と人との関係は、いつどんな風にこじれるかわかりません。
これまでは仲良かった相手でも、何かのはずみに仲たがいし、あげくの果てに絶縁…という事態も起こり得ます。
絶縁する相手が友人や知人など、もともとは他人であった間柄であれば絶縁後はそのまま関係を断つことができます。しかし絶縁する相手が家族や親族の場合には、自分が生きている間も、たとえ死んでから後であっても完全に関係を断つことはできません。
今回は絶縁と相続権との関係について解説します。家族との関係性が悪く絶縁を考えている人は、生前のみならず死後の相続についても予め深く考慮しましょう。
目次
家族と絶縁した人は相続できるか
そもそも家族と絶縁した人は、絶縁相手の財産を相続したり、絶縁相手に自分の財産を相続させたりできるのでしょうか。
結論から言えば、絶縁は相続権とはまったく関係がありません。そのため絶縁した家族の財産は、自分に相続権がある限り原則として相続できます。逆に絶縁するほど嫌いな家族でも、何の対処もしない限りは自分の死後の財産は絶縁相手が相続する権利を得ます。
「絶縁」には法的な効力がないため、いくら絶縁状を送りつけたり、家族と絶縁した事実を周囲にアピールしても家族関係で生じている義務や権利には影響しません。
相続権とは
絶縁と相続権の関係を知る前に、まずは相続権とは何かを軽くおさらいしましょう。
相続権とは、死亡した人(被相続人)の財産(遺産)を譲り受ける権利のことです。相続権を持っている人のことを法定相続人と呼びます。
法定相続人に誰がなるかは、民法により範囲や順位、相続割合が定められています。配偶者および家族や親族が法定相続人に指定されますが、被相続人の家族状況により配偶者と親や子、兄弟姉妹、祖父母や孫などの中で誰が法定相続人になるかは異なります。
法定相続人について詳しく知りたい人は以下の記事をご覧ください。
法定相続人の相続権は法律で守られている
大嫌いな家族と絶縁したら、その相手には自分の財産を1円たりとも渡したくないと思うのが心情でしょう。
しかし絶縁相手が法定相続人に推定されている場合には、まったく財産を渡さずにすむ訳にはいきません。
法定相続人の相続権は法律でしっかり守られているため、被相続人が生前に遺言状を書いて、絶縁相手に財産を相続させない意思を表明していても、絶縁相手が法定相続人である限りは遺言を無視できます。
絶縁相手以外の人や団体に財産をすべて遺贈(法定相続人以外に相続財産を譲ること)しても、法定相続人は遺贈先に相続割合の半額相当の遺留分を請求できます。
直接の相続ではないため遺言は守られた形にはなりますが、第三者を経由して一定の財産が絶縁した相手に渡ってしまう事実は変わりません。
絶縁相手が兄弟姉妹なら相続させずにすむ
上記では法定相続人には相続財産の半額相当を貰う権利があると申し上げましたが、相手が兄弟姉妹の関係であれば例外です。
兄弟姉妹、および兄弟姉妹の子である甥姪には遺留分の請求権がないため、被相続人が相続財産を絶縁相手以外の人間に相続(または遺贈)すれば、絶縁相手は相続財産を取り返す手段がありません。
ただしそのためには、あらかじめ遺言書を作成して財産の行く先を指定しておく必要があります。口頭での宣言や、法的に認められない形式の遺言書では無効となりますので注意してください。
2020年から自筆証書遺言が法務局で保管できるようになりました。絶縁相手とのトラブルが予期される人は、公証役場で公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言を法務局で保管するなどしておくと破棄や揉み消しが防止できます。
正式な遺言書の書き方や保管方法については以下の記事で詳しく解説しています。
重大な問題があれば相続廃除・欠格が可能
絶縁相手が親や子、祖父母、孫で、法定相続人と推定されている相手の場合には、通常であれば相続権をはく奪することはできません。
しかし、相手は絶縁しようと思うほどの人物です。常識では考えられないほどの酷いふるまいをされていたり、相手によって自分の資産や生命がおびやかされるような危険があった可能性も考えられます。
法律では法定相続人に対して相続権の保護をしていますが、法定相続人に推定されている人に重大な問題がある場合には、相続欠格もしくは相続廃除の制度により法定相続人から除外できます。
相続欠格とは
相続欠格とは、特定の違法行為(欠格事由)を行った相続人が相続権を失う制度のことです。
欠格事由となる違法行為は主に以下の5つです。
- 故意に被相続人や他の相続人を死亡させた、または死亡させようと試みた
- 被相続人を殺害し犯人を知りながら告訴・告発しなかった
- 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した
- 被相続人を脅迫し遺言を作成・撤回・取消・変更させた(またはさせなかった)
- 被相続人を騙して遺言を作成・撤回・取消・変更させた(またはさせなかった)
欠格事由が判明した際には、欠格事由の行為を行った人物の相続権は自動的に失われます。
相続廃除とは
相続廃除とは、被相続人の申し立てにより家庭裁判所が相続人の相続権をはく奪する制度です。生前の申し立て以外にも、遺言書に相続廃除の意思を書き残しておくこともできます。
個々の状況にもよりますが、具体的には以下のような事案があったときに相続廃除の審判がくだります。
- 暴力や暴言などにより被相続人を虐待した
- 長期間の介護放棄があった
- 被相続人の資産を無断で使い込んだ
- 被相続人を著しく侮辱した
- その他著しい非行(犯罪行為・不貞行為・長期間の音信不通など)があった
ただし家庭裁判所が相続廃除を認める要件はかなり厳しいため、相続廃除を認めてもらうためには十分な証拠が必要です。
暴力をふるわれた際の証拠写真や医師の診断書、警察や各相談孫口への相談実績など、できる限りの証拠を集めてください。
相続放棄の念書を書かせても無意味
絶縁するときに相手から相続放棄する約束を取り付けておけば良いと思っている人はいないでしょうか。
残念ながら、相続放棄は生前にすることはできません。たとえ相手から将来的に相続放棄する旨の念書を受け取っていても、実際に相続が発生したときには法定相続人は相続権を主張できます。
絶縁に法的効力がないのと同様に、相続放棄の念書にも法的効力はないため、まったく無意味な口約束となります。
また相続放棄は相続人の意思だけでは決められず、定められた手続きを行う必要があります。相続放棄について詳しく知りたい人は以下の記事をご覧ください。
どうしても絶縁相手に相続させたくない人は
相続欠格や相続廃除までの重大な事案はないが、なんとしてでも自分の財産を渡したくない、やむなく相続させるにしても少しでも絶縁した相手に渡る財産を少なくしたいという人はいったいどうしたら良いでしょうか。
以下からは、絶縁した相手にできるだけ相続財産を渡したくない人が生前にとれる対策を5つご紹介します。
ただし以下5つは、あくまでも絶縁相手の相続権を奪うことだけを目的とした方法です。実際に以下の手段をとったことにより、他の相続人や関係各位に対する影響は度外視しています。実行にあたってはよくよく熟考してください。
1.結婚する
現在独身の人は、積極的に婚活をして法的な結婚をしましょう。
結婚すれば配偶者は筆頭の法定相続人となり、財産の半分を相続します。絶縁した相手に渡る相続財産は半分となり、他の相続人がいる場合にはさらに目減りします。
もし結婚相手に連れ子がいた場合には、連れ子と養子縁組をすれば以下の手段もとることができます。
2.養子縁組をする
被相続人に子供がいる場合には、配偶者を除けばその子供が全財産を相続します。血縁関係のある実子ではなく、養子でも同様です。
絶縁相手が親や兄弟姉妹の場合には、誰かと養子縁組をすれば養子が法定相続人になるため、親・兄弟姉妹は法定相続人ではなくなり相続権を失います。
絶縁相手が実子の場合には、実子と養子の区別なく子が均等の割合で相続することになるため、養子の数が増えれば増えるほど相続財産は減ります。
3.生命保険に加入する
一時払いの生命保険に加入し、死亡時の保険受取人を絶縁した相手以外にする手段も有効です。
被相続人が死亡した際に支払われる死亡保険金は受取人の固有財産となるため、相続財産とは見なされません。そのため絶縁相手からの遺留分請求にも対抗できます。
ただし、契約者と被保険者、受取人の関係によっては「みなし相続財産」として扱われたり、贈与税の対象となる可能性がありますので注意してください。
4.生前相続(贈与)する
自分が生きている間に財産を生前相続(贈与)すれば、自分の財産の行き先は自分が自由に決められます。
ですが生前相続は上手に行わなければ、老後資金を失うリスクがあります。また贈与税や「生前贈与加算」の対象になる可能性についても十分に考慮しておかなければいけません。
以下の記事では上手な生前相続のやりかたを解説しています。生前相続を検討している人はぜひ参考にしてください。
5.財産を使い切る
いささか乱暴な手段ではありますが、生きている間に財産をすべて使い果たしてしまえば相続財産は1円も残りません。
なんとしてでも、1円たりとも絶縁相手に財産を相続させたくないと強く思っているのであれば、一考しても良いでしょう。
ただし自分の寿命は誰にもわかりません。財産をすべて使い果たした後に生きていく方法を考えておかなければ、その後の人生は悲惨なものになります。
おすすめできる手段ではありませんので、他の方法でできる手段はないかを考えてみましょう。
まとめ
今回は絶縁と相続権との関係について解説しました。
絶縁したいと思うまでに嫌なことがあった相手とは、自分が生きている間はもちろん死んでからも一切の関係を持ちたくないと考えるのは当然の話です。
死後に後悔しないように、生きている間にしっかり対策しておきましょう。

終活カウンセラー2級・認知症サポーター。父母の介護と看取りの経験を元にした、ナマの知識とノウハウを共有してまいります。

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