- 高齢者の生活保護件数は20年前のおよそ3倍
- 生活保護受給にはいくつかの条件がある
- 高齢者への扶助は6種類(全体では8種類)
- 生活保護に頼らないためには仕事の継続が良い
長い人生、何が起こるかは分かりません。
老後資金に関しても「なんとかなるだろう」と楽観視していたものが、病気や認知症、配偶者の死などにより予定が狂う可能性があります。
経済的に困窮した高齢者の最後のセーフティネットになってくれる存在が生活保護です。
今回は生活保護制度が高齢者にとってどのような助けになるのかについて解説します。
目次
高齢者の生活保護受給者が増えている
生活保護受給世帯の数は2015年(平成27年)をピークとしてここ数年は減少傾向にありますが、高齢者世帯の生活保護受給件数は年々増加しています。
厚生労働省の発表によれば、2018年(平成30年)12月時点での高齢者世帯への生活保護支給件数は88.2万世帯でした。
1997年(平成9年)の支給件数27.7万世帯に比べると、およそ3倍になっています。
画像引用:厚生労働省|第1回生活保護基準の新たな検証手法の開発等に関する検討会「生活保護制度の概要等について」
《高齢者世帯とは》
男女とも65歳以上の者のみで構成されている世帯か、これらに18歳未満の者が加わった世帯
そのため、2016年(平成28年)時点では生活保護の被保護人員のうち65歳以上の方が47.4%と、全体の約半数を占めています。
画像引用:厚生労働省|第1回生活保護基準の新たな検証手法の開発等に関する検討会「生活保護制度の概要等について」
生活保護とは
では、そもそも生活保護とはなんでしょうか。
生活保護とは、全ての日本国民が「健康で文化的な最低限度の生活水準」を維持できるようにするための国の保障制度です。
高齢者に限らず、母子家庭や障がい者など金銭的に困っている方は全て保護の対象です。
参考 生活保護制度厚生労働省生活保護は原則として世帯を単位として保護の決定および実施がされます。ただし状況に応じて世帯の一部だけに保護が適用されるケースもあります。
生活保護の申請方法
生活保護の申請は、居住地を管轄する自治体の福祉事務所宛に行います。なお、福祉事務所を設置していない自治体にお住まいの方は、市区町村役場でも申請できます。
《申請・審査に必要な書類の例》
・預貯金の通帳・証書
・生命保険証書
・健康保険証
・年金手帳
・住居の賃貸契約書
・給与明細書(就労している方)
・障がい者手帳(障がいのある方)
福祉事務所では生活保護の申請を受けると、審査を行った上で原則14日以内(審査状況により最長30日に延長)に生活保護の受給可否を回答します。
画像引用:大田区|生活保護その他の相談
生活保護の受給要件
様々な理由で経済的に困っている状況であっても、申請者全員が生活保護を受けられる訳ではありません。
生活保護支給が認められるには以下の要件を満たす必要があります。
世帯収入の限度
世帯収入が厚生労働省の定める最低生活費を超えると生活保護は受けられません。
年金を受給している高齢者は、その年金受給額も収入に含まれます。
参考 生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和2年10月)厚生労働省基準額は地域ごとに等級が定められており、級地ごとに最低生活費の額が異なります。
参考 級地区分厚生労働省保有資産の換金
資産を処分すれば生活資金が捻出できる方は、できる限り保有資産を換金する必要があります。
資産と見なされるのは預貯金・有価証券・不動産・貴金属などです。
なお自動車も基本的には資産となりますが、障がい者世帯の通勤や通院など車による移動が必須の場合には保有が認められるケースもあります。
能力の活用
働ける能力がある方は、できる限り働いて収入を得る努力をしなければいけません。
高齢者の場合でもシルバー人材センターやシニアハローワークの仲立ちにより、身体的に無理のない範囲での仕事を紹介されます。
扶養の活用
扶養義務者(子など直系血族)や親族から金銭的な援助が受けられるときには、その援助が生活保護よりも優先されます。
ただし扶養義務者等に援助する意志がない場合には、福祉事務所が援助を強制することはできません。
その他制度の活用
日本には生活保護制度以外にも、高齢者の生活に対するさまざまな支援制度があります。
恩給年金や遺族年金など、受給権利があるのにも関わらず受け取っていない給付金がないかを確認した上で、該当する公的給付や手当があればそちらが優先されます。
高齢者が受けられる扶助
上記の要件を満たし生活保護の必要があると判断されると、生活に足りない不足分が扶助されます。
扶助には以下8つの種類があります。
その中から教育扶助(義務教育履修の扶助)および出産扶助(分娩等の扶助)を除外した、高齢者に対して行われる扶助6つについて説明します。
生活扶助
生活扶助とは日常生活に必要な食料・衣服・消耗品などにかかる費用を支給するものです。
冬季(11月~3月)の期間は光熱費が加算される地域もあります。
住宅扶助
住宅扶助とは家賃など住居にかかる費用を扶助するものです。
家賃だけでなく、転居にともなう敷金や不動産会社への支払手数料なども実費が支給されます。
なお、住宅ローン支払は住宅扶助としては認められません。
医療扶助
医療扶助とは病院で診療を受けたときなどの医療費を扶助するものです。
生活保護受給者への金銭の支給はなく、健康保険の自己負担分を免除するという形での扶助となります。
高齢者の生活保護受給件数が増加して医療扶助が国の財政を圧迫しつつある現状を踏まえ、2018年の改正生活保護法では原則としてジェネリック医薬品(後発医薬品)の処方が義務付けられています。
介護扶助
介護扶助とは高齢者が介護サービスを利用する際の費用を扶助するものであり、高齢者の生活保護としては医療扶助と並びもっとも重要視されるものです。
介護扶助も医療扶助と同じく、介護保険の自己負担分を免除するという形での扶助となりますので、生活保護受給者への金銭の支給はありません。
葬祭扶助
葬祭扶助とは家族が亡くなった際の火葬費用や納骨代などにかかる経費を扶助するものです。生活保護受給者本人が亡くなった際の葬送費用は扶助されません。
葬儀場等に支払う費用の実費分が支給されますが、僧侶に読経をお願いしたときの費用や祭壇代、お花代などは対象にはなりません。また上限額は多くの自治体で20万円程度とされています。
生業扶助
生業扶助とは就労をするのに必要な技能の修得にかかる費用を扶助するものです。
また生活保護受給者が自営業を営んでいる場合には「能力の活用」を補助する目的により、事業資金や事業に必要な器具等にかかる経費も扶助される場合があります。
生活保護者でも老人ホームに入居できるのか
高齢者の生活保護に関してよく聞かれるのが「生活保護を受けていても老人ホームに入居できるのか」という質問です。
結論から言えば、生活保護を受けている高齢者でも老人ホームへの入居は可能です。
東京都福祉保健局が2014年(平成26年)に行った調査によると、都内福祉事務所を通じて生活保護申請を行った高齢者のうち、有料老人ホーム等の施設に入居している人数は5,140名でした。
参考 生活保護受給者の有料老人ホーム等の利用実態調査結果東京都福祉保健局2009年(平成21年)に行った同調査では施設入居者の数は1,080名ですので、5年余りで施設入居者が非常に増加したことがわかります。
入居できる老人ホームの種類
生活保護の有無により、入居する施設形態が制限されることはありません。
ただし生活保護受給者を受け入れていないところも多いため、施設ごとに確認が必要です。
東京都福祉保健局の調査によると、生活保護を受給している老人ホーム入居者の施設種別で、割合がもっとも多いのは有料老人ホーム(57.9%)でした。
画像引用:東京都福祉保健局|生活保護受給者の有料老人ホーム等の利用実態調査結果
入居者の費用負担
老人ホームで生活する際には一般的に家賃・管理費・食費・介護サービス費・医療費などの費用がかかります。
生活保護受給者が老人ホームに入居した場合にはそれぞれの費用に対して扶助が適用されるため、生活保護の範囲内であれば本人が直接負担することはありません。
生活扶助 | ・食費 ・管理費 ・その他費用 |
必要な金額を支給 |
住宅扶助 | ・家賃 | 実費を支給 |
介護扶助 | ・介護サービス費用 | 自治体が代わりに支払い |
医療扶助 | ・医療費 | 自治体が代わりに支払い |
入居できる老人ホームの探し方
生活保護受給者が老人ホームを探す際には、担当のケースワーカーに相談するのが一般的です。
ケースワーカーの多くは生活保護受給者の受け入れをしている自治体内の介護施設の情報を持っているため、個々の状況に合わせた適切な老人ホームの紹介を行ってくれます。
また最近ではインターネットでも老人ホーム探しができるウェブサイトが存在しているため、「生活保護入居OK」などの絞り込み検索をして受け入れ施設を探すこともできます。
参考 生活保護受給者ご入居可能5712件の検索結果一覧いいケアネット遠方の老人ホームに入る場合は移管が必要
お住まいの近くに適切な老人ホームがあるとは限りませんので、老人ホームの入居時に市区町村や都道府県をまたいで引っ越しをすることになるかもしれません。
管轄の福祉事務所が異なる地域の老人ホームに入居するときには、生活保護の移管が必要です。
引継ぎをすれば引っ越し先の地域でも生活保護を受けることが可能になりますが、各自治体により扶助の要件や上限金額が異なる可能性があるため、入居決定前に担当のケースワーカーとよく相談する必要があります。
生活保護に頼りたくないときには
生活保護はすべての日本国民に対して与えられた権利のため、利用しても決して恥じることはありません。
しかし、多くの方にとっては生活保護の利用は望ましくないものとして考えられているようです。
できれば生活保護に頼らず、自立した生活をしたいと考えている方も多いでしょう。
老後に備えて貯蓄しておくのも大切ですが、高齢者になってから経済的な不安を覚えた場合には、仕事をして収入を得るのも良い解決策です。
高齢者の仕事の探し方については以下の記事も参考にしてください。
老後も仕事を続けるためには?|定年後の仕事の探し方と事前にできる対策まとめ
今回は国民の最後のセーフティネットである生活保護について、特に高齢者が利用するときの決まりを中心に解説しました。
突然の事態で経済的に困窮する可能性に備えて、生活を守ってくれる公的制度を詳しく知っておくのは悪いことではありません。
これから老後を迎えようとする方は、いざというときのセーフティネットの存在を知っておきつつ、それに頼らなくても生活できる手段を講じておきましょう。
認知症サポーター。父母の介護と看取りの経験を元にした、ナマの知識とノウハウを共有してまいります。
「そなサポ」は、大切な資産や継承者を事前に登録することで、将来のスムーズな相続をサポートするもしもの備えの終活アプリです。
受け継ぐ相手への想いを込めた「動画メッセージ」を残すことができるほか、離れて暮らす子どもたち(資産の継承者)に利用者の元気を自動で通知する「見守りサービス」もご利用できます。
▶︎今すぐ無料ダウンロード!