最近では「毒親」の認知が広がっていて、親と縁を切りたいと考える方が増えています。
虐待や過干渉を受けている子どもの側からすれば「1日でも早く縁を切りたい」と思うこともあるでしょう。
では、「親子の縁を切る」というのは可能なことなのでしょうか。
本記事では法的な親子の縁切りが可能なのか否かに加え、事実上の縁切りを果たすための方法について解説します。
目次
【結論】親子の縁を切る方法はない
結論から言ってしまうと、法的に親子の縁を完全に断ち切る方法はありません。
親子の縁を切るといっても両者のあいだで「二度と関係を持たない」と宣言することくらいでしょう。
親子であることは生涯続くことになります。
なぜ、親子の縁はずっと続くのでしょうか。縁を切ることができそうな法制度でも、縁を切れない理由があります。
他人の普通養子になっても縁は続く
親元から離れる手段として「養子」があります。
養子のうち「普通養子」の場合、新たな養親の元で生活することは可能です。
ただ、実の親との関係はのちほど紹介する「相続」「扶助義務」について残ります。
特別養子になるのは現実的ではない
養子のうち「特別養子」は養親が戸籍上の父母になるため、もともとの親との親族関係は終了します。
ただし、「六歳に達している者は、特別養子となることができない。」という決まりがあり、現実的に親と縁を切ろうとしている方のほとんどは該当しません。
戸籍を分籍することはできるが……
分籍は「今の親の戸籍から抜けて、届出人を筆頭者とした戸籍を作る手続き」のことです。
子どもが親と縁を切りたいなどの理由で親の戸籍から出ていく場合に分籍するケースもあります。
ただし、分籍届をしても、親との関係が終了するわけではありません。あくまで戸籍が別になるだけの話です。
子どもは親を扶養する義務があるのか?
子どもは親に何かあれば扶養する義務(生活扶助義務)があることが民法で定められています。
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
引用元:e-GOV|民法
たとえば親が生活保護を申請すると子どもに対して扶養照会文書が届き、援助が可能かどうか尋ねられます。
裁判や調停の結果によっては、子どもに一定の扶養義務が発生する可能性もあるでしょう。
ただ、お互いの過去のことは置いておくとしても、子どもの生活が苦しい場合は援助が難しいものです。
この際に覚えておきたい事として、自分の親や兄弟姉妹に対する扶養義務は、「自分の生活を犠牲にしてでもすべての面倒を見る義務」ではない、ということです。
あくまで子どもの社会的地位や収入にふさわしい範囲で、余力がある分だけの扶養で問題ありません。
また、過去の親子関係によって扶養義務が発生しない場合もあります。
親と縁を切りたくなる理由には何がある?
親子の縁を切りたいと思い詰めるのには、どんな理由があるのか代表的な事例をまとめました。
親が過干渉すぎる
親が過保護・過干渉すぎるというのはよくあるケースです。
親が子どもの成長を理解できずに未熟な部分だけに固執して、自分の言うことを聞かせようとするところに原因があります。
親としては「子どものことが好きだから、心配だから」ということが理由のようです。ただ、すでに精神的に独り立ちしている子どもにとっては足かせ以外の何物でもありません。
親が子供からお金を奪う・無心する
子どもがしっかりしていても、親の金銭感覚がしっかりしているとは限りません。
親が子どもからお金を無心しても子どもは拒否できないケースも多く、実質的に奪われたと感じるでしょう。
「すぐに返すんだから」「今まで育ててきたんだから」といったように、親の権威を使ってお金を渡すことを迫られると絶縁したいと感じるのも無理はありません。
親から虐待をされた経験がある
親から虐待された経験がある場合、今すぐ距離を取る必要があります。
自分で物事を判断できる年齢になれば、逃げたくなるのは当然でしょう。
ひとり立ちできる年齢になったら、少しでも早く親元から独立して新しい住所を告げずに立ち去ってしまいましょう。
親子の縁を切りたい方が注意すべき「相続」のこと
互いに縁切りして何十年も連絡を取っていない場合でも、親が亡くなったり自分が亡くなったりすれば相続が発生します。
ここでは事実上の縁切りを果たした方の相続の注意点を紹介します。
子どもが親の財産を受け継ぎたくないなら相続放棄が必要
親が亡くなったとき、借金が残っているケースがあります。
親との関係が実質的に何年も前に終わっているのに、借金を相続するのは当然抵抗があるでしょう。
借金を相続しないためには、相続が開始したことを知ってから3カ月以内に相続放棄の手続きを家庭裁判所にする必要があります。
親に自分の財産を渡したくないなら推定相続人の廃除が必要
子どもが親より先に亡くなり、子どもが独身か夫婦のみで暮らしていたようなケースでは、子どもから親に財産が相続される場合があります。
何らかの事情で親に財産を渡したくないなら、「推定相続人の廃除」という手続きを行うことが必要です。
相続廃除は文字通り、相続権を持っている人を相続から外すことができる制度です。
誰でも自由に廃除できるわけではなく、民法892条に書かれた規定を満たす必要があります。
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
引用元:e-GOV|民法
親から虐待を受けていたり侮辱されたりした場合、家庭裁判所に申し立てて相続権を失わせることが可能です。
親と事実上の縁切りを果たす方法
解説したように、法的に親子の縁を正式に断ち切る方法はありません。
ただ、親子の縁がなくなったかのように今後関わらず生きることはできます。
引っ越ししたうえで住民票の閲覧制限をかける
事実上の縁切りをする方法として、今住んでいる家から秘密裏に引っ越してしまうということが考えられます。
ただ、住民票を移すと住所が親に知られてしまうため注意が必要です。
引っ越し後も付きまとわれそうなら、住民票の「閲覧制限」をかけましょう。
戸籍上の名字・氏名を改名する
戸籍上の名前を改名することで親から離れる方法もあります。
名前を改名するには家庭裁判所で「氏の変更許可申立」あるいは「名の変更許可申立」を行い、家庭裁判所の許可を取ることが必要です。
ただ、誰でもすぐに改名できるわけではなく、「改名の動機が正当であり、必要性が高い」「改名による社会的影響は低い」等の条件を満たすことが必要です。
絶縁状を送りつける
縁切りしたことについて一区切りをつけるために、絶縁状を送り付けるという方法もあります。
絶縁状は付き合いを絶つことを書面で宣言する手紙であり、法的な効力はありません。事実上の絶縁状態にすることは当人同士の判断です。
ただ、絶縁状を送ることで親に自分の決意を知らしめることはできます。
絶縁状について詳しくは以下の記事にまとめられており、気になればこちらも読み進めてみて下さい。
絶縁状には法的な効力がない!家族・親族との縁を切るための方法まとめ
虐待や過干渉などの被害を受けているとしても、残念ながら法的に親子の縁を完全に切ることはできません。
他の家庭の普通養子になったとしても将来の相続の問題が残り続けるため、自分に万が一のことがあっても良いように推定相続人の廃除などの準備は進めておきたいところです。
ただ、「事実上縁切りした状態」にもっていくことはできます。新しい住所に押しかけてくることも考えられるので、今後二度と会いたくないのであれば今回紹介した「住民票の閲覧制限」などの対策を検討してみましょう。
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