- 勘当とは、親から子供に「縁を切る宣言をする」こと
- 勘当しても「子供に財産を渡さない」ことはできない
- 遺留分を侵害しても子供の「遺留分侵害額請求」があれば取り戻される
- 相続廃除は条件が厳しく、現実的ではない
テレビドラマなどでみられる、親から子への「お前は勘当だ!出ていけ!」というシーン。現実でも、親子関係が修復不可能なまでに壊れてしまい、子供と疎遠になってしまうケースは考えられます。
「勘当」とは、そもそもどのような意味を持つ言葉なのでしょうか?法的な手続きは必要なのでしょうか?
本記事では勘当の由来や歴史、言葉の意味を解説しつつ、法的な有効性や親の死後の相続との関係について解説します。
目次
勘当の意味は「それまでの縁」を切ること
日本国語大辞典によると、「勘当(かんどう)」は以下のような意味を持つ言葉です。
一般に、親、師匠などが、子、弟子に対して、それまでの縁を切ること。
引用元:コトバンク|「勘当」の解説
もともとは「罪を考えて法に当てる」という意味もあったのですが、現在では「親が子供を家から追放する」意味として広く知られています。
結婚を認められずに勘当されたものの、その相手と結婚することを「勘当婚」と呼ぶこともあります。
勘当の言葉の由来
「勘当(かんどう)」という言葉の起源は古く、江戸時代の頃にはすでに親が子供を勘当して親子関係を絶つということができていました。
子供は親を訴えることが許されていなかったということからも、かつての父親の権力の大きさがうかがえます。
参考 親権概念の歴史京都女子大学悪さをしてばかりで救いようのない子供や弟子と縁を切る行為は江戸時代より前からあり、かつては「勘事(かんじ)」と呼ばれていたようです。
勘当と絶縁の違いは?
勘当と似たような言葉に「絶縁(ぜつえん)」があります。両者は「目上から目下との縁を切るか」「縁を切る人が目上・目下の関係にないか」で使い分けが可能です。
「勘当」は、目上の者が目下の者を追放したり縁を切ったりするときに使う言葉です。
逆に子供から親に対して縁を切ることを告げる、あるいは目上・目下の関係ではない者同士(兄弟姉妹など)で縁を切る場合には「絶縁」が使われるのが一般的です。
絶縁をする際、「絶縁状」を書いて今後は関係を持たない宣言をすることもあります。
法的な効力はありませんが、相手との関係を絶つことを書面に残すことで相手に強い意志を示すことができます。
絶縁状の書き方・送り方については、以下の記事で詳しく紹介しています。
絶縁状には法的な効力がない!家族・親族との縁を切るための方法 絶縁状の書き方|親子間・友人間・男女間に分けて解説勘当の手続きの有無
勘当は言葉としては有名ですが、法的に権利や義務が保証されたような制度ではありません。
親子という個人同士が私的に交流をしなくなることは自由です。特に、勘当のための法的な手続きは存在しません。
勘当しても戸籍上から消すことはできない
江戸時代など、明治時代以前の古い時代は、奉行所に勘当の届けを出して認められていたことがありました。
では現在ではどうでしょうか。ドラマのワンシーンにもありそうな、親から子供への「お前はもう、勘当だ!」のシーン。
勘当という行為をもって戸籍から子供の名前を消すことはできるのでしょうか?
結論から言ってしまえば、勘当したとしても戸籍から名前を抹消することは一切できません。親が子供を家から追い出して関係を絶ったつもりでいても、法律上の親子関係は解消されないのです。
もし親が亡くなれば、勘当された子供であっても相続権は発生します。
勘当した子供に財産を遺さないことは可能?
実の子供を勘当して家から追い出すほど関係が悪化した場合、追い出した側の親からすれば「あの子に財産は1円たりとも残してやらん!」という気持ちになることもあるでしょう。
いかに絶縁した子供とはいえ、財産を全く残さないということは可能なのでしょうか?
遺産相続を全くさせないことは不可能
すでに解説したとおり、勘当したとしても、法的に親子であることに変わりはありません。よって、子供に財産を全く残さないということはできません。
子供の取り分を指定することはできる
全く残さないということはできませんが、子供の取り分を少なくすることは可能です。
公証役場で公証人に作成してもらう正式な書類「公正証書」などを使って、勘当した子供よりも別の子供の取り分を多くすることはできます。
自分で作成する「自筆証書遺言」でも遺志を伝えることはできますが「不備があると無効になる可能性がある」「死後に出てこない可能性がある」といったデメリットがあります。確実に遺志を残すなら公正証書遺言の方が良いでしょう。
ただし、「遺留分」に注意
遺言を作成すれば、法定相続人の取り分を指定することは不可能ではありません。ただし、遺留分(いりゅうぶん)には注意が必要です。
法定相続人には最低限の取り分である「遺留分(遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分)」を受け取る権利があります。
遺留分を侵害した「勘当したAには全く財産を渡さない」という遺言自体は有効ですが、あとからAさんが「遺留分侵害額請求」をした範囲で、Aさんに財産が渡ることになります。
ただし、遺留分侵害額請求権には時効があります。自分の遺留分が侵害されていると知ったときから1年以内に家庭裁判所に申し立てないと無効になるので、遺言の内容を知った相続人はすぐに手続きが必要です。
勘当した子供の相続権を取り上げる「相続廃除」とは
どうしても子供に財産を渡したくない場合には、遺言によって推定相続人からの廃除を行うこともできます(相続廃除)。
相続廃除とは
相続廃除とは、文字通り「相続権を持っている人(親が死亡したときの配偶者・子供など)を相続から外すことができる制度」のことです。
「絶対に、あの人には財産を渡したくない」と心に決めている場合に有効です。ただし、望めばだれかれ構わず相続廃除できるわけではありません。
推定相続人を廃除する条件として、民法では以下のように決められています。
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。引用元:e-GOV|民法
相続廃除は簡単には認められない
民法によって定められた相続廃除の条件を見ると「被相続人を虐待」「重大な侮辱」「推定相続人に著しい非行があった」と書かれているとおり、簡単には認められないことがわかります。
重大な虐待や侮辱があると認められないと相続廃除はできず、勘当をしたからといって相続廃除の直接的な理由にはなりません。
まとめ
「勘当(かんどう)」は、目上の人(親など)が目下の人(子供など)に、関係を解消して縁を切ることを宣言する時に使われる言葉です。
ただし、私的な交流がなくなったとしても、法的な親子関係は解消されません。もし親が亡くなれば、勘当されて家を出た子供も相続をする権利があります。
「遺言で勘当した子の取り分を減らす」という行為は可能ですが、子供が正当な手続きを踏めば遺留分にあたる財産はわたります。
戸籍でも相続でも、勘当はあくまで私的な縁切りということを覚えておきましょう。
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