- 相続放棄が認められない理由は「非申述」「必要書類不足」「財産を処分等した」「熟慮期間を過ぎた」「親子の利益相反になる」「制限行為能力者の相続放棄」
- 相続放棄が却下されてから2週間以内なら即時抗告できる
- 相続放棄した後に裁判で無効になるケースも
- 相続放棄が認められない事態を回避するためには弁護士への相談がおすすめ
相続放棄は正しく手続きをしないと、放棄が法的に認められません。
また正しく手続きをしたとしても、状況によっては相続放棄の申述が家庭裁判所から却下されたり、後日になってから無効と判断されるケースもあり得ます。
今回が相続放棄が認められなくなる理由を、具体的な事例を挙げながら紹介していきます。
目次
認められない理由その1:裁判所への非申述
法律的に相続放棄が認められるには、家庭裁判所への申述が必要です。
相続放棄の意思を周囲に伝えただけでは相続放棄が法的に認められません。必ず家庭裁判所に正しく手続きをしましょう。
家庭裁判所への相続放棄の申述の仕方は、以下の記事で詳しく説明しています。
相続放棄の方法をわかりやすく解説|期間や費用・申述手続きの流れ認められない理由その2:必要書類の不足
家庭裁判所に提出する必要書類が不足していると、相続放棄の申述が却下されてしまいます。
よく不足しがちな書類としては、以下の書類が挙げられます。
- 結婚して新たな戸籍を作る以前の戸籍謄本がなかった
- 被相続人の死亡した子の戸籍謄本が記載不十分だった
- 住所のつながりを証明する書類が不足していた
追加書類の要請があり、要請に応じて必要書類を提出できれば再び受理されますが、手続き完了までの日数が伸びるため注意が必要です。
以下の記事では相続放棄の必要書類についてさらに詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてください。
相続放棄で必要な書類とは|申述書の作成ポイントと添付書類の用意の仕方認められない理由その3:単純承認の成立
相続放棄する前に被相続人の相続財産を受け取っていた方は単純承認が成立したと見なされ、その後相続放棄の申述をしても認められません。
例えば以下のような行動を行ったときには、単純承認の成立と見なされます。
- 一定額以上の形見分けの品を受け取った
- 不動産屋車の名義変更をした
- 遺産分割協議に参加した
- 遺産を廃棄処分した
- 遺産を第三者にあげてしまった
- 被相続人宛にきた光熱費や電話料金などの請求書を代わりに支払った
具体的な事例
相続放棄の申述を行っていた相続人Aが被相続人Bの死去後に、被相続人の私物である和服15枚・洋服8着・ハンドバッグ4点・指輪2個を持ち帰っていた事実が判明し、相続財産の一部を処分して単純承認がすでに成立していたものと見なされ相続放棄が無効になりました。(昭和52年4月25日 松山簡裁決定・判例時報878号95頁)
認められない理由その4:熟慮期間の超過
相続放棄は被相続人が死亡した日、あるいは自分が相続人となった事実を知った日から3ヶ月以内に手続きしなければいけません。この期間を熟慮期間と呼びます。
被相続人の死亡日と、相続人である事実を知った日が離れている場合には注意が必要です。なぜなら自分が「知らなかった」と証明するには、知らなかったことが客観的に認められるための材料が必要だからです。
ただ「知らなかったから仕方がない」と答えるだけでは熟慮期間の延長が難しくなり、相続放棄しても無効と見なされます。
具体的な事例
相続人Xらは被相続人Aと生前に分籍していたために相続が発生しないと確信し、そのため相続放棄の熟慮期間を超過したと主張しました。しかしXらはAの債権者Bより「法定相続人の貴方様に上記債務をお知らせする次第です」と明記した通知書をすでに受け取っており、自分たちが被相続人の法定相続人である事実を知っていたものと見なされ貸金返還請求が認められました。(平成13年10月11日 大阪高裁決定・判例時報1770号106頁)
認められない理由その5:親子の利益相反
未成年の子が相続放棄をする際には、ほとんどの場合には保護者である親が代理人になり申述を行います。
しかし保護者が同じ財産を相続していると、子が相続放棄をしようと思っても親が相続放棄の申述の代理人になれず、相続放棄ができません。
これは相続放棄が子にとって不利益となるかもしれず、親子の利益相反(一方の利益になると同時に他方への不利益になる行為)の恐れがあるからです。
また、親子ともに相続放棄をする場合、親子の利益相反を完全に否定するためには子の相続放棄よりも親の相続放棄を先にしなければいけません。
具体的な事例
共同相続人の1人Gが後見人となっている被相続人Dの未成年の子4名の代理人として相続放棄の申述を行った時期は、Gが相続放棄を行うより前だった可能性があることで利益相反と見なされ却下されました。しかし後の最高裁でGの行為は「民法862条にいう利益相反行為にあたらない」と認められ、原審に破棄差戻されています。(昭和53年2月24日 最高裁決定)
認められない理由その6:制限行為能力者
認知症や知的障害などの理由により自らの意思で財産管理ができず、第三者に財産管理の意思決定をゆだねるべきと家庭裁判所が決定した人は制限行為能力者と呼ばれています。
制限行為能力者は判断能力の程度に応じ、成年被後見人・被保佐人・被補助人に区別されます。
原則として、制限行為能力者は自分自身で相続放棄を行うことができません。相続放棄をするには成年後見人などの法定代理人が代理で行うか、法定代理人の合意のもとに行う必要があります。
また、相続放棄の時点で制限行為能力者に決定されていなかった方でも、すでに認知症になっていたと判断された場合には相続放棄が無効になる可能性があります。
認知症になった方は相続放棄以外にも相続について制限が設けられます。詳しくは以下の記事で確認してください。
認知症だと相続できない?回避策を解説|成年後見人・任意後見契約・遺言書具体的な事例
相続人Aが相続放棄をして遺産分割調停手続から排除されましたが、Aの成年後見人Bは Aが放棄時点ですでに認知症になっていたために相続放棄の意味を理解する能力がなかったと無効を主張しました。裁判所はBの主張を認め、放棄する合理的理由が見いだしがたいとして放棄がAの真意に基づかないと判断し、相続放棄が無効になりました。(平成27年2月9日 東京高裁決定・判例タイムズ1426号)
相続放棄が認められなかったときの対策
上記のような理由により相続放棄が認められないと家庭裁判所が判断したときには、相続放棄の申述は却下されます。
とはいえ相続放棄をしたい方にとっては、却下されたからと言ってあきらめるわけにはいきません。
申述人が家庭裁判所からの不受理決定通知書を受けた日の翌日から2週間以内であれば、即時抗告により不服申し立てができます。
相続放棄が認められるべき具体的な証拠書類を早急に用意して、再審理を申し立てましょう。
後から相続放棄が認められなくなる可能性も
家庭裁判所が相続放棄の申述を受理しても、まだ安心はできません。
相続放棄によって債権が回収できなくなる債権者などの人物が、訴訟を起こす可能性もあるからです。
裁判所では改めて相続放棄の有効性について審議し、判決により相続放棄の効力を否定する判決がくだったときには、相続放棄は無効となります。
裁判で相手に対抗する、また、そもそも訴訟を起こさせないようにするためには、相続放棄をする時点から入念な準備が必要です。
相続放棄は弁護士への依頼がおすすめ
相続放棄の手続き自体は比較的簡単にできますが、これまで紹介したような事例を回避し、トラブルや訴訟を未然に防ぐためには、相続のプロである弁護士の力を借りた方が安心です。
自分が相続放棄すべきかどうか、相続放棄したときに自分や周囲にどのような影響が起こり得るか、まずは相談してみるのも良いでしょう。
相続放棄手続きを弁護士に依頼したときにかかる費用は、以下の記事で確認してください。
相続における弁護士費用の目安|各種手続きや紛争解決など事例別に紹介まとめ
今回は相続放棄が認められない理由と、具体的な事例をご紹介しました。
相続放棄が認められなければ、借金などの負の遺産を自分がかぶってしまう恐れがあります。相続放棄をしようとする方は今回の記事を参考に、間違いのない手続きを行いましょう。
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