- 経験のある分野を選び、人脈を活かすことが大切
- 生活資金と事業の運転資金はきちんと分けて管理する
- 利用できる補助金をフル活用して資金難を回避する
少子高齢化が進む中で、年金制度の存続に疑問を感じる方が少なくないのではないでしょうか?実際、「年金だけの生活では老後資金が2,000万円不足する」というニュースもあります。
収入獲得と自己実現のために退職後に起業を考えている方は多く存在します。
成功する場合もあれば、起業を断念したり失敗して撤退してしまう場合もあります。定年後にビジネスを成功させるためには、資金面や顧客獲得等に入念な準備が必要です。
今回は、定年後の起業に失敗するケースを確認しつつ、失敗と成功のポイントを3つずつ紹介します。
目次
起業に関するシニアの実態
起業に関して、シニア層はどのように考えているのでしょうか?
クラウド会計サービス大手のfreee株式会社が「起業に関する調査アンケート」を実施しました。(実施期間:2019年8月30日~9月2日)
その結果、50歳以上のシニア層で28.7%、約4人に1人が「起業に関心がある(あった)」と回答しています。
約3割のシニアが3年以内の開業を目指す
同じアンケートでさらに起業に関心がある方に絞って質問したところ、シニア層の32.1%が「3年以内に起業を実現したい」と考えています。これは20代~40代の回答より高い数値結果です。若い層よりもシニア層の方が早いタイミングで起業を実現したいと考えていることが分かります。
少子高齢化、年金不安の増大に伴って、今後もこの傾向は続いていくでしょう。
定年後の起業を踏みとどまる理由
起業に関心を持ってはいても結局実現できていない、実現できないまま諦めた方も存在します。
アンケート結果を見ていくと、理由として以下の2つが考えられます。
「起業に対して不安に感じていることで、起業に踏み切れない(なかった)要因」の項目において、順位は以下のとおりでした。
1位 自己資金の不足
2位 資金調達の難しさ
3位 収入減や失敗した時のリスク
年代全体を通して資金面に対する不安から起業できていないケースが目立ちました。
資金面に続いて、起業に踏み切れない要因として「事業運営に関する知識・ノウハウがない」「起業の方法がわからない」といった声がありました。
4位 事業運営に関する知識・ノウハウがない
5位 起業の方法がわからない
50代以降は、他の年代に比べて社会人としての就業経験はありますが、実際の起業の方法や実務面ではまだまだ不安を抱えている結果となりました。
定年後の起業で人気の職業
20代では「医療・福祉」「生活関連サービス・娯楽業」が多く、他の年代とは一線を画した結果です。近年ではYouTuber等の新しい形態のフリーランスが浸透していることも関係していると考えられます。実務経験・ノウハウに乏しい20代は、未経験の領域に行こうとしている方が多いようです。
一方、30代以降は「飲食業」「小売業」に人気が集中している点で共通しています。
小売業
50代以上のシニア層で「コンサルタント業」と並んで13.7%とトップに位置しているのが「小売業」です。
以前は店舗・倉庫の確保、在庫の仕入れなど準備コストの負担が大きいというデメリットがありましたが、現在ではネットショップの普及によって開業の敷居が大きく下がっています。
また、低コストでノウハウを仕入れる方法としてコンビニやスーパーなどのフランチャイズ加盟店での開業も人気があります。
飲食業
「小売り業」「コンサルタント業」に次いで13.3%と高い結果になったのが「飲食業」です。30代・40代では「コンサルタント業」を抜いて2位に位置しており、世代を問わず人気があります。
ネットショップ開業とは違い、実店舗で経営する点が特徴です。
「店のコンセプト」「メニュー開発」「立地調査」「店舗物件の確保」「許認可の申請」等、開業前から多くの準備、資金が必要です。このことから、飲食業を志している方は起業に対して、より具体的なイメージを持っていることが分かります。
老後に人気が高い仕事ランキングについては以下の記事もご参照ください。
定年後の起業で失敗する3つのポイント
平成28年に厚生労働省が発表した「飲食店営業の実態と経営改善の方策」では、毎年15万を超える飲食店が開業する一方で、ほとんど同じ数の店が閉店しています。
定年後の起業で失敗するポイントは以下の3つが挙げられます。
1.開店場所のリサーチ不足
飲食店を開店する場合、店舗の立地条件が勝負を分けます。
客単価重視なら人通りが多い路面店、逆に客単価や常連客を大切にするなら路地裏で広い店を構えるなど、コンセプトによっても違うため、これが最適解と一概に言えません。
「駐車場がない」「公共交通機関からアクセスできない」等の悪条件で開店しても、客足を伸ばすことは困難です。
2.初期投資にお金をかけすぎてしまう
ほぼ初期投資なしで始められるコンサルティング業や、実店舗を構えなくていいネットショップでは起こりにくい問題ですが、実店舗を用意する必要のある飲食店などの起業では起こり得ます。
自己資金をオーバーして銀行から融資をうけ、内装・食材の産地・味・雰囲気にこだわったとしても、人気が出るとは限りません。
予想より客足が悪くなることで銀行への返済に苦労するようになり、ほどなくして閉店というパターンが多く存在します。
3.お客様にメリットを伝えられない
技術職として長年製造業に携わった方が、定年を機に起業をするパターンです。
技術者としては圧倒的な実力を持っていても、営業には別のスキルが必要になります。「分かりやすく噛み砕いて説明するスキル」「お客様にメリットを訴求するスキル」「聞き役に徹して悩みを引き出す・解決策を示すスキル」がないとせっかくの良い技術が伝わらず、販売に繋がりにくくなります。
定年後の起業を成功させる3つのポイント
失敗談の次は、典型的な成功パターンを見ていきましょう。
失敗例・成功例の両方を確認することで起業へのヒントになります。ネット上ではさまざまな成功事例が紹介されていますが、成功者に共通している代表的なポイントは以下の3つが挙げられます。
1.現役時代の経験や人脈を活かす
「freee株式会社」のアンケートの結果から見ても、「知識・ノウハウが足りない」と回答した方は他の年代よりも低い水準でした。すでに経験がある分野で起業する方が多いと考えられます。
「スーパーでバイヤーをしていた経験を活かして個人事業のバイヤー業務を行う」等が該当します。過去の経験と人脈をそのまま活かせるから準備期間が大幅に短縮できる点もメリットです。
2.生活資金を運転資金にしない
失敗事例でも紹介したように、「店舗開店資金が退職金で足りずに銀行から借りる」「生活資金を運転資金の一部にする」といった状態は危険です。
計画していた客数が入らないと一気にキャッシュフローが悪化して資金難に陥る可能性もあります。店舗開店当初は退職金などの余剰資金だけで賄えるよう、40代・50代から資金面の準備を進めることが重要です。
3.助成金・補助金をフル活用する
開業にあたって資金の融資を受けることが必要なら、金利が低い「日本政策金融公庫」の助成金・補助金に申し込むことをおすすめします。
シニア世代が利用できる助成金・補助金は以下のとおりです。
生涯現役起業支援助成金
起業基準日年齢が40歳以上の方に給付される助成金です。助成金従業員の雇用を中高年齢者等の雇用機会として設定する等の諸条件を満たすと受給できます。
【支給対象】
- これまで生涯現役起業支援助成金が受けたことがない
- 起業基準日の年齢が満40歳以上であること
- 60歳以上の対象である労働者を1人以上・40歳以上60歳未満の対象である労働者を2人以上または40歳未満の対象労働者を3人以上雇用する等
【支給額】
- 60歳以上は上限200万円。助成率=2/3
- 一定期間後に事業が継続されていて条件を満たせば「生産性向上助成分」として当初助成額の1/5を別途支給
支給条件が細かく設定されているため、詳細は厚生労働省のHPをご確認ください。
シニア起業家支援資金
正式名称を「女性、若者/シニア起業家支援資金」といいます。事業開始後おおむね7年以内の女性の方、35歳未満か55歳以上の方に支給される助成金です。
【融資限度額】7,200万円(うち運転資金4,800万円)
【返済期間】設備資金=20年以内 運転資金=7年以内
起業に「資格」は必要か
起業に向けて国家資格取得を目指す方もいます。「ファイナンシャルプランナー」「中小企業診断士」など経営や財務の知識を補強できる資格が人気です。
また、「社労士」や「行政書士」等、独占業務資格を取得して開業を目指す方もいます。
先のアンケートでも起業に踏み切れない要因として、「起業に関する資格などの取得」が挙げられていましたが、これらの資格は起業に必ずしも必要なのでしょうか?
難関資格があっても成功するとは限らない
弁護士白書(2019年)によると、弁護士人口は1950年には5,827人だったのが2019年には41,118人に増えており、競争も激しくなっていることが予想されます。また、2018年には605人の弁護士が何らかの理由で弁護士資格の取り消しに至っており、その内379人の弁護士が自らの請求で弁護士資格を取り消しています。
弁護士でさえ、廃業する人が毎年増えている状況です。難関資格を取得したから全員が活躍できるとは限らないことが分かります。
むしろ、お客様のニーズをくみ取るセンスや経験、人脈の方が起業を成功させるためには必要です。
資格は実務経験があってこそ活きてくる
行政書士等、自宅にPCが1台あれば開業できる国家資格も確かに存在します。しかし、大切なのは「いかに仕事を獲得できるか」です。
本格的な開業前に数年間、行政書士事務所で経験を積むなど「修業期間」を経てお客様を見つけるノウハウを得て初めて、難関資格は役に立ちます。
定年後の起業に備え、資格があれば業務遂行の自信には繋がりますが、起業の成功のためには業務を得るためのノウハウや経験を積むことが必要です。
老後の仕事でも経験を活かして働く方法については以下の記事もご参照ください。
まとめ
今回は、定年後のシニア起業希望者が起業に成功するための失敗と成功のポイントを3つずつ解説しました。起業によって生活を豊かにできる可能性がある一方、数十年働いて手に入れた退職金を使ってしまうリスクが存在します。
確実に起業を成功させるために、退職前に綿密な準備を進めていきましょう。
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