- 遺言執行者になるための資格は不要だが欠格事由もある
- 専門家ごとに対応できる業務の違いを把握しておく必要がある
- 認知や廃除を行う場合は遺言執行者の選任が必須
遺言が残された場合、誰かが遺言の内容に従って財産の分割などの実務を行う必要があります。遺言の実行のために指定される方が「遺言執行者」です。
ただ、絶対必要でなく、いなくても相続自体は可能です。では、どのような時に選任したほうが良いのでしょうか?
今回は遺言執行者になる方が求められる資格と、どんなときに必要なのかについて解説します。
目次
遺言執行者は遺言の内容を実現させる方
「遺言執行」は、遺言者の死後に遺言の内容を実現させることです。遺言内容の実現は公的機関が代行してくれるわけではなく、誰かが預貯金の引き出しを始めさまざまな業務を行わなければいけません。
具体的に遺言の内容を実現させる方が「遺言執行者」です。遺言書に記載された内容を実現させるために必要な権限と義務が与えられています。
遺言であらかじめ指定しておく方法のほかに、利害関係者が家庭裁判所に申し込むことで弁護士などの専門家を選任してもらう方法もあります。
遺言執行者になるための資格は不要だが欠格事由もある
遺言執行者になれる方について、特別な指定はありません。
第三者として弁護士や司法書士のような専門家の指定もできますし、相続人の誰かを選任することも可能です。
ただし、以下のような欠格事由に該当する方は選任できません。(民法第1009条)
- 未成年者
- 自己破産した方
遺言書作成時に自己破産していないとしても、遺言者が死亡した時点で自己破産者に該当した場合は欠格事由に該当する点に注意が必要です。
また、遺言作成時点では未成年でも、遺言者の死亡時点で成年を迎えている場合は選任できます。
専門家に依頼する場合は資格の特性に注意
遺言執行者として専門家を選任する場合、候補は以下のとおりです。
- 弁護士
- 司法書士
- 信託銀行
どの専門家を指定したとしても、遺産相続について特別なことをやってくれるわけではなく、あくまでも煩雑な手続きの代行という位置づけです。
どの専門家が良いのかは、依頼する専門家の特性とトラブルが予見されるかどうかで異なってきます。
相続財産に不動産が含まれると相続登記が必要で、これは司法書士の領域です。ただ、弁護士でも業務を行うことはできます。加えて問題になるのが相続中に遺産相続トラブルが発生したときです。
訴訟などの法的トラブルに対応できるのは弁護士のみで、ほかの専門家に依頼していると結局は弁護士に相談するしかありません。結果的に専門家2人分の費用が発生します。
弁護士の報酬は他の専門家よりも一般的に高いと言われていますが、トラブルが考えられる場合、結果的に安く済むこともあります。
遺書の相談は誰に?遺言作成をサポートしてくれる4人の専門家を比較遺言書作成で遺言執行者を指定しておいた方が良い理由
遺言書作成では遺言執行者を無理に指定する必要はありません。ただ、遺言作成の時点で選定しておくことで、さまざまなメリットがあります。
遺言執行者を選定しておくべき理由とメリットについて、詳しく見ていきましょう。
手続きを円滑に進めるため
遺言執行者を決めておいた方が良い理由として「相続手続きを円滑に進めるため」というものがあります。
事前に決めておかない場合は「誰が相続の手続きを進めるか」が分からず、手続きがうまく進まないことがあるためです。あらかじめ選定しておけば、相続人の代表として相続登記や相続人調査など複雑な業務を期限に間に合うように行ってくれます。
財産を保全するため
相続前の財産を保全できるのも、遺言執行者を選定するメリットです。
遺言執行者の職務として「相続財産の保全・管理」が含まれており、遺言執行の対象になる財産を管理している相続人がいる場合は財産の引き渡し請求ができる権限があります。
事前に選定しておけば独断で遺産を処分することができないので、分割前の相続財産を使われるというトラブルを防止できます。
遺言執行者にしかできない権限があるため
遺言執行者に与えられる権限について、民法で以下の通り記載があります。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
引用元:e-GOV|民法
具体的な業務としては以下のとおりです。
- 相続人・相続財産の調査
- 相続登記
- 推定相続人の廃除・取り消し
- 祖先の祭祀(さいし)主催者の指定
- 生命保険の受取人の指定 など
また遺言執行者がいる場合、遺贈の履行も遺言執行者だけが行えます。(民法第1023条2項)
遺言の作成で遺言執行者が必要なケース
具体的に遺言執行者がいたほうが良いケースとしては、大きく分けて以下の2つに分かれます。
- 遺言執行者が絶対に必要なケース
- 遺言執行者がいたほうが助かるケース
遺言執行者が絶対に必要なケース
遺言執行者が絶対に必要なケースは以下の2つです。
- 遺言認知がある場合
- 推定相続人の廃除・その取り消しを行う場合
「認知」とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子供と法律的な親子関係を生じさせることです。母親と子供は出産によって親子関係がありますから、特に男性と子供とのあいだに親子関係を生じさせることを指します。遺言によって認知を行う場合は、遺言執行者の指定が必要です。
「相続人の廃除」とは、相続人から虐待を受けた等の理由で相続人から廃除する手続きのことです。廃除は被相続人が遺言書で意志を示すだけでは不十分で、遺言執行者が家庭裁判所に排除を申し立てする必要があります。一度廃除した手続きの取り消しも遺言執行者がいないとできません。
遺言執行者がいれば助かるケース
認知や廃除などがない相続では、必ずしも遺言執行者は必要ありません。ただ、専門家に一任したほうが助かるケースも多いのが実情です。
- 相続人に負担をかけたくない場合
- 相続人同士で相続トラブルが起きそうな場合
相続人の世代によっては30~50代の働き盛り・現役世代であることも多いです。仕事で忙しく、相続の実務に割ける時間がない場合、専門家にお願いするメリットは大きいでしょう。
また、最初からトラブルが起きそうなことを予見できる場合、遺言執行者として弁護士を選任しておくことが有効になることもあります。もし訴訟トラブルになった場合、弁護士ならスムーズな対応が可能です。
専門家に遺言執行を依頼する際の費用相場は「財産の1~3%」
相続人が遺言執行者になる場合は報酬を受け取らないケースもありますが、専門家に依頼する場合は報酬が発生します。
法律で報酬額が決まっているわけではありませんが、目安は「遺産総額の1~3%」といわれています。5,000万円の遺産相続で遺言執行を任せるなら、50~150万円が相場ということです。
ただし、遺言の執行以外に交通費・郵便費用・登記費用など実務でかかった費用は別で支払いが必要です。
士業の種類によっても報酬額は異なる
相場として遺産総額の1~3%という目安はあるものの、実際に相談する士業の専門家によっても報酬額が変わります。
また信託銀行に依頼する場合の注意として、遺言執行者として行えることが「財産に関する遺言の執行」だけに限定されている点があります。
「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」(第1条1項4号)で、以下のような記載があります。
第一条 銀行その他の金融機関(中略)は、他の法律の規定にかかわらず、内閣総理大臣の認可を受けて、信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第一項に規定する信託業及び次に掲げる業務(政令で定めるものを除く。以下「信託業務」という。)を営むことができる。
四 財産に関する遺言の執行
それ以外の業務については別の遺言執行者を選任する必要があります遺言の作成からワンストップでお願いできる代わり、費用も100万円以上と高額になる点もネックです。
以下の記事では各専門家の費用相場について紹介しています。専門家に依頼を検討している方はぜひご覧ください。
遺言書の作成費用の相場はいくら?作成したあとにかかる費用も一挙紹介まとめ
今回は遺言執行者に必要な資格や報酬相場、選任が必要なケースについて解説しました。
遺言執行者になるには特別な資格は必要ありませんが、未成年や破産者と言った欠格事由に該当する方は専任できない点に注意が必要です。必ずしも専任しなくても資産相続はできますが、現役世代が仕事の合間を縫って相続手続きを行うのは大変です。
相続トラブルを未然に防ぐ意味でも、専門家にお願いしておくことがおすすめです。
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