- 民法上の相続財産以外で相続税がかかるものをみなし相続財産という
- みなし相続財産には非課税枠がある
- 被相続人固有の財産ではないものは相続税対象外
- 遺言を残す際はみなし相続財産も考慮する
目次
遺産相続以外にも相続とみなされる財産がある
遺産を相続すると相続税がかかりますが、通常の遺産相続以外にも相続税の対象となる財産があります。それが「みなし相続財産」です。
今回は「みなし相続財産」となるのはどの財産か、相続税の対象外となるのはどの財産かをまとめました。また、節税となるポイントもご紹介します。
みなし相続財産とは
みなし相続財産と本来の相続財産の違い
本来の相続財産は、「民法で規定された相続財産」のことを言います。被相続人の死亡時に被相続人固有の財産(権利・義務)であり、被相続人の死亡により相続人に移転するものです。
一方「みなし相続財産」とは、民法上では相続財産ではないけれども、相続税法では相続財産とみなされ、相続税の対象となる財産のことを言います。被相続人の死亡により取得した金銭であり、実質相続財産と変わらないので、相続財産とみなした方が税制上相続人間の公平を図れるからです。
そのため「みなし相続財産」は、以下の点において本来の相続財産とは違います。
- みなし相続財産は、遺産分割の対象にはならない
- 本来の相続権を放棄しても、みなし相続財産は取得できる
みなし相続財産に該当するもの
◆生命保険金
生命保険金は、被保険者の死亡により受取人に支払われます。保険契約者と被保険者が同一人物である場合、契約者の財産が契約者の死亡により受取人に移転した形になります。よって、その場合には生命保険金は相続税法上の「みなし相続財産」となるのです。
◆死亡退職金
故人の退職金が死亡により相続人に支給された場合、死後3年以内に確定した退職金であれば、「みなし相続財産」となります。
死亡退職金は相続人に直接支給されますが、本来は被相続人が存命中に退職して受け取るはずであった金銭です。そのため、事実上は被相続人の財産が相続人に移転したとみなされ、相続税の対象となります。
◆定期金
まだ定期金給付事由が発生していない定期給付契約の個人年金保険料や掛金を、故人が負担していた場合には、定期金に関する権利がみなし相続財産となります。故人が負担していた保険料によって後に得られる定期金に関する権利を相続・遺贈したとみなされるためです。
◆3年以内の生前贈与
通常、110万円以下の暦年贈与は非課税となります。しかし、死亡前3年以内の贈与については「みなし相続財産」としてさかのぼって合算し、相続税の対象となります。
◆多額の弔慰金
本来、常識的な範囲内での弔慰金は非課税です。しかし、課税逃れを目的に多額の弔慰金が支払われることを防止するため、一定基準以上(業務上の死亡の場合、普通給与の3年分、業務上の死亡以外の場合、普通給与の6ヵ月分)の弔慰金は相続財産とみなします。
◆低額譲受による利益
故人の財産を購入した形をとっていても、遺言で時価よりも著しく低額で譲り受けた場合には、その差額を故人からもらい受けたとみなされ、「みなし相続財産」となります。
◆債務の免除・減額
遺言によって遺産で借金を肩代わりしてもらったり、一部を支払ってもらった場合、相続人や受遺者の手元に財産は残らなくても、相続・遺贈とみなし、相続税の課税対象となります。
みなし相続財産の非課税枠
生命保険金・死亡退職金の非課税枠
みなし相続財産である生命保険金・死亡退職金には、非課税枠が設けられています。
ただし、法定相続人以外の人が受取人の場合には、非課税枠は適用されません。
なお、法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとして考えます。しかし、相続欠格者や相続人から廃除された人は人数に含まれません。その場合は、非課税限度額も減額されます。ただし、相続欠格や相続人廃除による代襲相続の場合には、代襲相続人を人数に含めて計算します。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠の計算例
法定相続人が4人いる場合
→500万円×4人=2,000万円
上記の場合、2,000万円以内の生命保険金・死亡退職金であれば、相続税はかかりません。
養子の場合は人数制限あり
法定相続人が養子である場合には、非課税限度額の計算のもとになる法定相続人に含められる人数が限られます。被相続人に実子がいる場合には1人まで、実子がいない場合には2人までとされています。
これは、養子を増やすことで非課税枠を広げようとする悪質行為の防止するための規定です。
相続時精算課税制度の利用
相続時精算課税制度とは、親か祖父母からの生前贈与に対する贈与税が、2,500万円まで非課税になる制度です。この制度を利用した場合、相続時に生前贈与分と相続・遺贈分を合算して、相続税を支払います。つまり、生前に贈与された財産が「みなし相続財産」となります。
この制度は、生前贈与で取得した財産と相続財産を合算して基礎控除額を超えない場合には、大きな節税となります。ただし、基礎控除額を超えた場合には、通常の生前贈与(暦年課税贈与)よりも税額が高くなることが多いので、利用する際は事前にしっかり確認しましょう。
みなし相続財産に含まれないもの
みなし相続財産に含まれるかどうか判断しにくいものもあるでしょう。次のような財産は、みなし相続財産には該当せず、相続税が課税されません。
国・公共団体などへの寄付
国や地方自治体、公共団体への寄付金には、相続税はかかりません。ただし、以下の条件が設けられています。
- 相続税の申告期限内に寄付する
- 既存の公共団体である
- 寄附を受けた団体はその財産を2年以内に公益事業に使用する
遺族年金
遺族年金は、遺族の生活を保障するために遺族に直接支給される年金であるため、相続とはみなされません。相続税はかからず、また所得税も課税されません。
損害賠償金
被相続人が事故などで死亡した際に支払われる損害賠償金は、相続とはみなしません。これは、生命保険金などと違い、支払われるかどうかが被相続人の死亡時には未定であること、すなわち相続開始後に生じた収入であるためです。
生前に決まっていた損害賠償金は相続税の対象
ただし、損害賠償金の受け取りが被相続人の生前に決まっていて、受け取る前に亡くなってしまった場合には相続税の対象となります。賠償金を受け取る権利が、相続開始までは被相続人に帰属していたためです。
宗教的な礼拝に使用する財産
墓地や墓石、仏壇・仏具、その他宗教的な礼拝に使用する財産は、非課税となります。ただし、骨董品としての価値がある財産などは、財産とみなして相続税の対象となる場合があります。
一定基準以内の弔慰金
常識の範囲内とみなされる、下記に記す一定基準以内の弔慰金やお悔やみ用の花輪代などは、相続税非課税です。
- 業務上の死亡の場合…普通給与の3年分
- 業務上の死亡以外の場合…普通給与の6ヵ月分
みなし相続財産に関する注意点
保険金への課税額は当事者の関係により異なる
生命保険金は、保険料負担者・被保険者・受取人の関係により、課税される税が異なりますので、注意が必要です。
生命保険料の課税パターン
保険料負担者 | 被保険者 | 受取人 | 課税される税金 |
---|---|---|---|
被相続人A | 被相続人A | 相続人B | 相続税(非課税枠あり) |
相続人B | 被相続人A | 相続人C | 贈与税 |
相続人B | 被相続人A | 相続人B | 所得税 |
遺産分割でトラブルになりやすい
みなし相続財産は、民法上では相続財産に該当しないため、しばしば遺産分割トラブルの原因となります。本来の相続財産を公平に分割しても、それとは別にみなし相続財産を受け取った人がいると、他の相続人が納得できないのも無理はありません。
遺言書を書いたり生命保険に加入したりする際には、その点にも十分な配慮が必要です。
課税非課税を確認すれば節税対策ができる
みなし相続財産は相続税の対象となりますが、非課税枠をうまく利用することもできます。また、相続財産とみなされない財産についても、合わせて確認しておくと、節税対策に役立つでしょう。
相続税は、税制の中でも専門性が高く複雑です。個人で対処するのが難しいときには、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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