- 遺言信託には「遺言による信託」と「遺言信託」サービスがある
- 「遺言信託」サービスでは遺言書の保管と遺言執行をしてくれる
- 遺言信託は資産家の遺産相続や相続人以外への遺贈に向いている
- 信託銀行では2種類の費用プランを用意しているのが一般的
目次
遺言信託とは
「遺言信託」は、2つの違う意味で使われている言葉です。1つは、本来の法的な意味での「遺言信託」で、もう1つは信託銀行が提供しているサービスとしての「遺言信託」です。
この2つは、意味も内容も異なりますので、まずはその違いからご説明します。そして、遺言信託でできることや遺言信託サービス利用の際のメリット・デメリット、具体的な方法と費用についても解説します。
法的な「遺言による信託」と「遺言信託」サービスの違い
法的な「遺言による信託」
「遺言による信託」は、法的には、遺言によって信託の設定を行うことを言います。信託とは、ある人を信頼して、一定の目的に従い財産の管理や処分を委託することです。
財産の持ち主を「委託者」、財産の管理や処分を託される人を「受託者」、財産の管理や処分による利益を得る人を「受益者」と言います。
「委託者」と「受託者」が合意の上で契約を交わし、信託を設定するのが本来の形ですが、これを遺言の形で設定することも認められているのです。(信託法3条2号)
なお、契約による信託の場合、「委託者」と「受益者」は同じ人物でも構いません。
A(委託者)は遺言書によって、自分の死後に財産である不動産Xを処分し、その譲渡益をAの子供B(受益者)の学費に充てるよう、友人C(受託者)に委託した。
信託銀行の「遺言信託」サービス
もう1つの意味は、信託銀行のサービスとしての「遺言信託」です。このサービスでは主に、遺言書の保管と遺言執行を依頼できます。遺言執行とは、遺言書の内容に従って財産分割などを実行する手続きのことです。
「遺言信託」サービスとその仕組み
信託銀行が提供している「遺言信託」では、以下のようなサービスを受けられます。
「遺言信託」サービスの内容
- 遺言内容の相談
- 公正証書遺言の証人・作成サポート
- 遺言書の保管
- 遺言内容の変更など定期的な照会
- 遺言の執行
信託銀行が依頼者から遺言を預かり、執行するしくみは以下の図のようになります。
「遺言信託」サービスのしくみ
「遺言信託」サービスのメリット・デメリット
「遺言信託」サービスのメリット
遺言書作成のサポートしてもらえる
素人には難しい遺産相続に関する遺言内容の決定・遺言書作成手続きをサポートしてもらえます。
資産運用のアドバイスを受けられる
「遺言信託」サービスを行っている信託銀行は、銀行業務の他、お客様の資産管理・運用を行っています。そのため、遺言作成のサポートだけでなく、財産の運用方法についても、専門的なアドバイスを受けられます。
遺言書を確実に保管・執行してもらえる
遺言執行者は通常、弁護士や個人が請け負うことが多く、遺言者本人より先に死亡した場合には、新たに遺言執行者を選任し直す必要があります。「遺言信託」サービスなら、信託銀行という法人が遺言執行者となるので、そのような心配はなく、安心して遺言書を託せます。
また、公証役場で遺言を保管する場合、遺言者が死亡しても公証役場の方から遺言書の存在を教えてくれません。しかし、「遺言信託」サービスなら通知人を指名しているので、連絡を受けた信託銀行が責任を持って遺言執行者となってくれます。
相続人同士のトラブルが起きにくい
「遺言信託」サービスでは、法的効力のある遺言(基本的には公正証書遺言)を保管・執行してもらえます。それに、第三者である信託銀行が執行者となるので、相続人同士のトラブルが起きにくい傾向にあります。
「遺言信託」サービスのデメリット
手数料が高い
「遺言信託」サービスは、主に財産を多く所有している顧客向けのサービスです。生前の遺言作成から定期的な照会、死亡後の遺言執行まで、長期的に提供されます。そのため、行政書士や弁護士に依頼する遺言書作成サポートより、手数料が高いのが一般的です。
身分行為に関わる業務は行えない
信託銀行が「遺言信託」サービスで行える業務は、「財産に関する遺言の執行」と法律に定められています。そのため、信託銀行は遺言執行者であっても、子の認知や相続人排除など相続権の決定に関わる身分行為は請け負えません。
遺言書にそれらの内容を盛り込みたい場合は、弁護士への相談をお勧めします。
紛争の可能性が高いと引き受けられない
依頼者が残したい遺言が、相続人同士で紛争が起こりそうな内容であると、信託銀行では引き受けてもらえないことが多いです。
信託銀行は遺言作成サポートと遺言執行者としての手続きはできても、弁護士ではないので紛争が起きて執行が困難になった場合に、その問題を解決することはできないからです。
さらに「遺言信託」サービスを利用し、相続時に紛争が起きて信託銀行が執行できなくなった場合でも、これまでに払った費用は返済されない場合が多いです。
相続税の申告はできない
一定額以上の遺産相続には相続税が課税され、申告手続きが必要です。
手数料の高い遺言信託を利用する顧客の資産は、一定額以上であることが多いでしょう。
しかし、信託銀行に認められた業務範囲では、相続税の申告手続きの代行できませんので、税理士への相談が必要です。
「遺言信託」サービスが向いているケース
法定相続人以外に遺贈したい場合
法定相続人以外の個人・団体に遺贈したい場合には、第三者である信託銀行が遺言執行者となるとスムーズに相続が行えることがあります。
晩年介護してくれた人に財産を分けたい、事業の後継者に資産を継承したい、公共団体に寄付したいなどの場合には遺言信託が向いているでしょう。
財産が高額である場合
高額で広範囲な財産を有している人なら、定期的な遺言書の見直しや資産運用など細やかに対応してくれる信託銀行の「遺言信託」サービスが向いているかもしれません。手数料が少々高くても、長期的なサポートに満足できるでしょう。
「遺言信託」サービスの流れ
相続開始前(生前)
①【依頼者】信託銀行へ遺言の相談
「遺言信託」サービスを検討するなら、まずは信託銀行へ相談にいきましょう。対象となる財産や相続人、依頼者の希望などから、どのような遺言にすればいいかアドバイスをもらいます。
また、具体的な相談に入る前に複数の信託銀行へ相談に行き、依頼先を決める材料にするのもいいでしょう。
②【依頼者】公証役場で遺言書を作成
遺言書の内容が決まったら、公証役場で公正証書遺言を作成します。担当者に同行してもらい、手続きのサポートを受けるとより安心です。
公正証書遺言の作成には、2名の証人の同席が必要ですが、その役を信託銀行の担当者に依頼するのもいいでしょう。
③【依頼者】「遺言信託」サービスの申込み
公正証書遺言ができたら、信託銀行にて遺言書の正本・謄本の保管と遺言執行の申込みをします。このとき、依頼者(遺言者)が死亡した際に信託銀行に連絡する通知人を指定しておきます。
④【信託銀行】遺言書の保管
相続開始まで、信託銀行が責任をもって遺言書を保管してくれます。
⑤【信託銀行】遺言内容の定期的な照会・遺言書の書き換え
遺言内容に変更がないか、信託銀行から定期的に確認の連絡が来ます。財産の増減・相続人の変更など変更点があれば、遺言書の書き換えをサポートしてくれます。
相続開始後(死亡後)
⑥【死亡通知人】信託銀行へ遺言者の死亡を通知
依頼者(遺言者)が死亡し相続開始となったら、「遺言信託」サービスの申込みの際に指定した死亡通知人が、信託銀行へ連絡します。
⑦【信託銀行】遺言執行業務の開始
死亡通知を受けた信託銀行は遺言執行者に就任し、相続人や関係者に保管している遺言書の内容を開示します。
⑧【信託銀行】遺産の調査・財産目録の作成
信託銀行は、相続人や関係者から資料の提供などの協力を得ながら、遺産の調査を行います。そして、調査結果をまとめた「財産目録」を作成し、相続人に交付します。
⑨【信託銀行】遺産分割業務→遺言執行の終了
信託銀行は、遺言の内容に従い、遺産の名義変更、処分(売却・換金など)、引き渡しなどにより、相続人や受遺者に遺産を分配していきます。
執行手続きがすべて完了したら、「遺言執行完了報告書」により相続人や受遺者に執行完了を報告し、業務を終了します。
「遺言信託」サービスの費用
「遺言信託」サービスでは通常、以下のような費用が発生します。
「遺言信託」サービスの費用
- 基本手数料
- 遺言書保管料(年額)
- 遺言執行報酬
上記以外にも、別途以下のような費用が必要となる場合があります。
「遺言信託」サービス基本料金以外に必要な費用
- 遺言書の書き換え手数料
- 財産調査費
- 換金手続き報酬
- 財産の規模や関係者の人数による追加報酬
- 中途解約金
遺言者の負担が軽いプランと相続人の負担が軽いプランがある
多くの信託銀行で採用されているのが、「①遺言者の負担が軽いプラン」と「②相続人の負担が軽いプラン」の2つのプランです。
「①遺言者の負担が軽いプラン」は、基本手数料が安く、初期費用を抑えられるプランです。
一方、「②相続人の負担が軽いプラン」であれば、初期費用は高めですが、遺言執行報酬から基本手数料分を控除するプランが多いのが特徴です。そのため、相続人の負担を軽くできる上に、最終的な支払総額も割安となります。
「遺言信託」サービスの費用目安
①遺言者の負担が軽いプラン | ②相続人の負担が軽いプラン | |
---|---|---|
基本手数料 | 20~30万円 | 80~100万円 |
遺言書保管料(年額) | 5,000~7,000円 | 0~7,000円 |
遺言書の書き換え手数料 | 5~11万円 | 5~11万円 |
遺言執行報酬 | 財産額に合わせて一定率をかける | 財産額に合わせて一定率をかけ控除額(例:70~100万円)を差し引く |
遺言執行報酬の最低金額 | 110~165万円 | 50~80万円 |
中途解約金 | 16~22万円 | なし |
「遺言信託」サービスを利用するときの注意点
自分で作成した遺言書は使えない
信託銀行では、内容や書式を確認できない「自筆証書遺言」の遺言信託は引き受けてもらえません。遺言書が実現不可能な内容であったり、正しい書式で書かれていないものであったりなど、遺言執行の段階でトラブルになるリスクを避けるためです。
遺言信託で採用されるのは、基本的に公正証書遺言となりますので、信託銀行の担当者と相談の上で作成しましょう。
遺言信託を検討するなら早めの相談を
「遺言信託」サービスは、費用面では決して安くないサービスです。しかし、「豊富な財産をトラブルなく確実に相続したい」と考えるなら、検討してみる価値はあります。
また、「遺言信託」サービス利用の準備は、依頼先の決定から遺言作成まで、一定の時間を要する作業です。いざという時のことを考えると、早めに相談されることをおすすめします。
行政書士事務所経営。専門は知的財産ですが、許認可から相続まであらゆる業務を行っています。また、遺言執行や任意後見関係を専門とする社団法人の理事もしています。アドバイスや業務遂行でお客様の問題が解決するととても嬉しくやりがいを感じます。行政書士ほか、宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級の資格所持。
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