- 「遺贈」とは遺言によって財産を無償で贈ることである
- 遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」がある
- 遺贈と相続と死因贈与には各場面において違いがある
- 公益事業への寄付遺贈は節税になる
目次
「遺贈」は「相続」とどう違うのか
遺産の残し方には、いくつかのパターンがあります。その1つが「遺贈」と呼ばれる方法です。
遺産と言えば「遺産相続」が一番に思い浮かぶ人も多いでしょう。では、「遺贈」と「相続」はどう違うのでしょうか?
今回は、「遺贈」の特徴とその他の遺産継承方法との違いをご説明します。また、それぞれの方法がどんなケースに向いているか、節税になる使い分けにも触れました。
「遺贈」とは
「遺贈」とは、故人が生前に残した遺言によって、死後に財産を無償で贈ることを言います。財産を贈る故人を「遺贈者」、財産を贈られる人を「受遺者」と言います。
受遺者となるのに法的制限はなく、親族や法定相続人以外の赤の他人でもなることができます。
「特定遺贈」と「包括遺贈」
遺贈には、財産の分け方において2つの種類があります。
「特定遺贈」とは
「特定遺贈」とは、文字通り特定の財産を遺贈することです。「現金1,000万円」や「自宅の建物」など、遺言によって財産を特定して遺贈する方法です。
「包括遺贈」とは
「包括遺贈」とは、受遺者に遺贈する財産を割合によって指定する方法です。
財産には、故人が亡くなった時点で保有しているすべての財産が含まれます。現金や不動産、有価証券、権利など、あらゆる経済的価値のあるものが、遺産となります。そこには、借金などのマイナス財産も含まれます。
それらすべてを包括して、その何割かを受遺者に譲るのが「包括遺贈」です。そのため、遺言書への記載は「全財産の何%を受遺者Aに遺贈する」などの文言となります。
「遺贈」と「相続」と「死因贈与」の違い
遺産の残し方には、もっとも一般的な「相続」と前述した「遺贈」の他に、「死因贈与」という方法もあります。それらは混同されやすいため、ここではその違いについてご説明します。
「遺贈」と「相続」の違い
「相続」とは、民法で定められた遺産を受け継ぐ権利のある人が、そのまま遺産を受け取ったり分け合ったりすることです。遺産を受け継ぐ権利を「相続権」、相続権を持つ人を「相続人」と言います。
一方「遺贈」は、遺産を受け取る人に制限がありません。相続権のない親族や親族ではない他人でも受遺者になれる点で、相続とは異なります。
また、相続の場合、故人の死亡により自動的に開始されますが、遺贈の場合は少し違います。遺贈では遺言書が法的効力を持ちます。
「遺贈」と「死因贈与」の違い
「死因贈与」とは、生前に交わした贈与契約に則り、財産所有者が死亡した時点で財産を贈与する方法です。つまり、「自分が死んだらAさんにこの財産をあげます」と、当事者同士で契約を交わしておくのです。
贈与契約の一種ですから、両者の同意に基づいて交わされる約束であることが特徴です。
一方「遺贈」は、遺言による故人の遺志に基づいて行われます。受け取る側の同意はなく、故人の単独の行為である点で、「死因贈与」とは異なります。
遺贈・相続・死因贈与の比較表
相続 | 遺贈 | 死因贈与 | |
---|---|---|---|
受け取る人 | 法定相続人のみ | 制限なし | 制限なし |
受け取る人の同意 | なし | なし | あり |
受け継ぐ方法 | ①遺言書 ②法定相続に基づく ③遺留分を請求する |
遺言書 | 死因贈与契約 |
向いているケース | 相続人である家族に遺産を残したい場合 | 相続人以外に受け継がせたい場合。 【例】相続権のない親族、内縁の妻、親しい友人など |
相手の同意を得て確実に受け継がせたい場合 |
「遺贈」「相続」「死因贈与」各場面での違い
税金
「遺贈」「相続」「死因贈与」は、いずれも相続税の対象です。また、受け継ぐ財産が不動産である場合、相続税以外にも「不動産取得税」と「登録免許税(不動産の名義変更にかかる税)」が課税されます。
ただし、財産を受け取った人と故人の関係性によって、税額が異なります。それぞれの違いにおけるポイントをまとめました。
相続税
法定相続人への「相続」「遺贈」「死因贈与」では、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)が適用されます。
また、配偶者と一親等以内の親族(親・子)以外への相続税は、2割増しで課税されます。
不動産取得税
法定相続人への「相続」の場合、不動産取得税は課税されません。一方、法定相続人以外への「遺贈」では課税されます。そして「死因贈与」の場合は、当事者の関係性に関わらず、不動産取得税が課税されます。
登録免許税
法定相続人への「相続」「遺贈」の場合は、固定資産評価額の0.4%の登録免許税が課税されます。(2021年3月31日までは、土地の相続における登録免許税は免除されます)
一方、法定相続人以外への「遺贈」の場合は、固定資産評価額の2%の登録免許税が課税されます。そして「死因贈与」の場合は、当事者の関係に関わらず、2%の登録免許税が課税されます。
不動産の登記手続き
「遺贈」の場合、受遺者が所有権移転登記をする際には、遺言執行者と協力して申請する必要があります。遺言執行者が選任されていない場合には、法定相続人全員(遺贈義務者)と共同で申請しなくてはいけません。
一方、「相続」の場合は違います。遺言に特定の不動産を相続させる旨の記載があれば、相続人1人で申請手続きが行えます。
「死因贈与」の場合には、「遺贈」の場合と同じく遺言執行者か相続人全員の協力が必要です。
農地の継承
農地を「遺贈」「死因贈与」する場合には、農地法の規定により、農業委員会または都道府県知事の許可を得る必要があります。受遺者・受贈者が農業従事者ではない場合、許可されない場合もあります。
「相続」の場合には、遺言さえあれば、農地法上の許可を得ずに所有権移転登記が可能です。
借地権・借家権の継承
借地権・借家権を「遺贈」「死因贈与」する場合には、賃貸人の承諾を得る必要があります。一方「相続」の場合には、賃貸人の承諾は不要です。
遺産受け取りの放棄
「相続」を放棄する場合には、相続が開始されたことを知ってから3ヵ月以内に申告することで可能です。「包括遺贈」の場合も同様で、3ヵ月以内に申告すれば受遺を放棄できます。
「特定遺贈」の場合も放棄可能です。こちらは特に期限は設けられていません。
注意が必要なのは、「死因贈与」の場合です。死因贈与では当事者間で契約が成立しています。そのため、贈与者の死後に契約の効力が発生してから受け取りを放棄することは、原則的にはできません。
ただし、生前に死因贈与契約を撤回することは可能です。
「遺贈」を検討するときのポイント
法的に有効な遺言書を残す
遺贈を検討するとき最も大切なことは、法的に効力のある遺言書を残すことです。
正しい書式で書かれていない遺言書は、法的有効性が認められません。せっかく遺志を書き残しても、死後に無効となってしまうことがあります。
正しい遺言書を残すのに一番良い方法は、「公正証書遺言」を作成することです。「公正証書遺言」は、公証役場で、法務大臣により任命された公証人に作成・保存してもらえるため、法的に有効な遺言書を確実に残すことができます。
遺留分に注意する
遺産には、民法によって「遺留分」が定められています。遺留分とは、遺言により相続できなかったり大幅に相続分を減らされたりした法定相続人が、請求すれば保障される一定の取り分のことです。そのため、遺贈する財産が遺留分に抵触していれば、その分だけ差し引かれたり、トラブルの原因にもなります。
遺贈を検討する場合には、遺留分に抵触しないように遺言を残すことが大切です。
公益事業への寄付は節税になる
遺贈にかかる相続税を節税する方法としてよく検討されるのが、寄付です。
法人への寄付には通常法人税が課税されますが、認定NPO法人への寄付遺贈であれば非課税となります。個人への遺贈でも、その財産を受遺者が2年以内に公益性の高い事業に活用すれば、相続税非課税となります。
また、遺贈や相続で得た財産を公共団体や自治体へ寄付すれば、団体の種類に応じて相続税の「寄付金控除」が受けられます。
「跡継ぎ遺贈」は無効
「跡継ぎ遺贈」とは、もし受遺者が死亡した場合に、代わりに遺贈したい人をあらかじめ遺言書に記しておく方法です。しかし跡継ぎ遺贈の法的効力は疑問視されていて、「無効である」とする見解が一般的です。
もし「跡継ぎ遺贈」を希望するのであれば、一度弁護士などに相談してみましょう。
遺産の残し方の違いを理解して遺言を書こう
遺産の残し方には、相続・遺贈・死因贈与・寄付など、多くのバリエーションがあることがわかりました。
財産は自分が亡くなった後も残り続けるものですので、ぜひ納得のいく形で受け継ぎたいものです。そのためには、それぞれの残し方の違いを理解し、どの方法が自分の希望に合うか検討することが大切です。
また、遺志を確実に残すためには、正しく遺言書を作成・保管しなくてはいけません。必要であれば、行政書士、弁護士などの専門家に相談するのもいいでしょう。
行政書士事務所経営。専門は知的財産ですが、許認可から相続まであらゆる業務を行っています。また、遺言執行や任意後見関係を専門とする社団法人の理事もしています。アドバイスや業務遂行でお客様の問題が解決するととても嬉しくやりがいを感じます。行政書士ほか、宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級の資格所持。
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