- 親が子を勘当する理由はいろいろ(借金・家庭内暴力・引きこもり等)
- 親が子を勘当しても法的効力はない
- 勘当した親は子から反撃される可能性があるため身を守る対策が必要
- 重大な理由があれば勘当に法的効力が補強できる制度がある
親子には、切っても切れない縁があると言います。
しかし、自分の子からどうしても許せないふるまいをされた人は、断腸の思いで親子の縁を切りたいと思ってしまうこともやむを得ないでしょう。
親が子を絶縁することを「勘当」と呼びます。
果たして現代の日本では、勘当に法的効力はあるのでしょうか。親子の縁は本当に切っても切れないのでしょうか。
今回は、親が子を勘当したくなる原因や勘当の法的効力などについて解説します。
目次
親子の関係はこじれると修復が困難

たとえ親子とはいえ、いったん関係がこじれてしまうと修復は非常に困難です。
もともとの関係が濃密であるだけに、仲たがいしたらお互いの気持ちは急激に遠ざかってしまいます。
かつては圧倒的な力を持っていた親でも、年老いてくると体力や気力が衰えて子にかなわなくなってきます。以前から親に不満を抱いていた子が、親が衰えた途端に復讐しようとしてくることもあるでしょう。
家庭内の問題は第三者の他人が立ち入りづらいため、関係修復の手助けを求めにくい点も親子のいさかいの特徴です。
親が子を勘当したくなる理由

親が子を勘当したくなる理由は、それぞれの親子により違いがあります。
一般的には、子に以下のような理由があると親が勘当を決断したくなるようです。
自分の子に以下のような傾向がないか、冷静な気持ちでチェックしてみましょう。
金銭や資産の使い込み・借金
子が親の資産を勝手に使い込み、自分の利益や快楽のために浪費してしまうと勘当の原因になります。
資産は現金や預貯金だけとは限りません。貴金属を売り払ったり、自宅に保管されている印鑑を使って不動産名義を書き換えて自分のものにするなどの行為も資産の使い込みにあたります。
また子の借金トラブルも勘当の一因です。本来、借金は借りた人だけが返済を追う義務がありますが、返済を求める貸主によって家族が迷惑をこうむるケースも決して少なくありません。
親が子の連帯保証人にされていた場合には、借金をした子の代わりに親が返済の責務をすべて負う可能性もあります。
ギャンブル・アルコール等の依存
金銭の使い込みの原因がギャンブルやアルコールなどの依存であった場合には、さらに親の苦労は増します。
酒に酔った子が親に対して暴言を吐いたり、暴力をふるったりして、親に肉体的・精神的な苦痛を与えることもあります。
依存症は立派な病気なので、依存から脱却するには医療の力を借りる必要があります。しかしギャンブルやアルコール、または麻薬などに身も心も支配された患者が治療をこばむケースも多々あり、依存から抜け出すのは容易なことではありません。
家庭内暴力
金銭の使い込みを叱責された、また依存症の治療を求められたために子が激高し、親に対して暴力をふるう可能性があります。
高齢になり筋力が衰えた親は、成人した子の暴力に対抗することが難しくなります。家庭内ということもあり、暴力をふるわれても警察に助けを求めずに泣き寝入りする親も少なくありません。
引きこもり
内閣府の調査によると、いま日本では推計146万人もの引きこもりがいると推計されています。
~引きこもりとは~
就学や就労、交遊などの社会的参加を避けて、原則的には6ヶ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態のこと
引きこもりは当人だけでなく、その家族も苦しめます。2019年には農林水産省の元事務次官が子の引きこもりを悲観したあげくに子を殺害した事件も発生し、事件の後には同じように引きこもりの子を持つ親たちから相談電話が相次いだそうです。
子の結婚相手が不満
上記までは明らかに子に非がある勘当理由ですが、親のこだわりや願いを子が聞き入れないために勘当となるケースも存在します。
例えば子の結婚相手が気に入らないなども理由のひとつです。子は親の同意なく結婚が可能とはいえ、親にとっては手塩にかけた子が気に入らない相手と結ばれることには難色を示す親は少なくありません。
結婚した後でも子の配偶者との折り合いが悪くなり、親世帯と子世帯でいさかいが生じることはよくあるでしょう。
家業の後継を拒否
自分で事業を営んでいる親だと、できれば子に後を継いでもらいたいと考えている親は少なくないでしょう。
しかし子にも職業選択の自由があります。親の希望どおりに家業を継がなかったために勘当されても、それは子のせいではありません。
親が実子を勘当しても法的効力はない

さまざまな理由により親が子を勘当するケースはありますが、ひとつ誤解されやすいのは、親による子の勘当には法的効力がない点です。
勘当の事実が戸籍上に残るわけではないので、いくら勘当したと言っても法律上の義務や権利は勘当する前と同じように存在しています。
ただし、これは血縁関係がある実子に限ります。子が養子の場合には、養親と養子の両者が同意すれば養子縁組を解消できますが、子が実子だと法的に縁切りをする方法がありません。
「親子の絆は切っても切れない」とは単なる気持ちの問題だけでなく、法律上でも同じことが言えます。
なお血縁関係は親子だけでなく祖父母・孫、兄弟姉妹などもありますが、兄弟姉妹など同等の立場にいる間柄の縁切りには「勘当」ではなく「絶縁」を用います。
子が勘当に納得しない可能性がある

親が子を勘当したいとまで思っていても、子が同じ気持ちでいるとは限りません。
そのため親からの勘当に、子が納得しない可能性があります。
特に金銭の使い込みや引きこもりなどが勘当の理由である場合には、勘当されることで子には直接の不利益が発生します。お互いに自立した関係であったとしても、勘当に至るまでの意見の衝突があったのなら、勘当の事実を突きつけられた子がどのような反応をするかわかりません。
勘当を解こうと文句、押しかけ、果ては暴力をふるわれる危険性すらあります。
健康な成人に対して高齢者は体力や筋力も衰えているため、力ではかないません。成人した子を勘当しようとす親は、勘当したことによる身の危険にも注意しておかなければいけないのです。
勘当した子から身を守る方法

勘当はできればしないに越したことはありませんが、どうしても許せない理由により勘当を決断した後は、子からの反撃に備える対策が必要です。
勘当には法的効力がないため、何か問題が起きても警察は基本的に民事不介入となります。公的な助けがほとんど期待できないため、自分の身は自分で守りましょう。
以下からは勘当した子から自分の身を守るためにできることを3つ紹介します。
1.移転先を伝えず引っ越しする
勘当した子には移転先を伝えず、速やかに引っ越しをしましょう。自宅を所有している人であっても、適切な避難場所がなければ自宅を売却処分して移り住むくらいの強い覚悟が必要です。
引っ越しが完了しても、新しい住所に子が押しかけてきたら無意味になってしまいます。現在の居住地を特定されないように、住民票や戸籍の附票に必ず閲覧制限をかけておきましょう。
参考 配偶者からの暴力(DV)、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の方は、申出によって、住民票の写し等の交付等を制限できます。総務省2.携帯電話・メールアドレスを変える
自宅に押しかけられることがなくても、電話やメールでしつこく子が連絡してくる可能性もあります。
携帯電話番号やメールアドレスは新しい番号・アドレスに変更してください。元の携帯電話やメールアドレスは解約せずそのまま維持し、子から連絡が来ても見ないようにしておくのも良い方法です。
最近ではSNSをやっている高齢者が増えていますが、SNSの投稿により自宅のある地域などが特定される可能性があるため、投稿を行う際には十分な注意が必要です。
3.弁護士経由で絶縁状を送る
勘当と同じく絶縁状にも法的効力はありませんが、弁護士経由で絶縁状を送ることにより、弁護士が頼もしい助っ人になってくれます。
権威ある弁護士からの書類が届くことで、子に親の本気度合いを伝えられます。勘当した子とやりとりが必要な際にも弁護士が窓口になってくれるため、不快な思いや危険性が亡くなる点もメリットのひとつです。
絶縁状の作成・送付を弁護士に依頼するやりかたや費用の目安については以下の記事で詳しく解説しています。
→リンク「絶縁状 弁護士」
勘当に法的効力をプラスする方法

繰り返し言いますが、勘当には法的効力がありません。
しかし以下2つの方法を使えば、ある程度は法律の力で勘当の事実を補強できると考えられます。
1.接近禁止仮処分命令を申し立てる
配偶者からのDVを理由にした「接近禁止命令」は、親子関係では適用できません。
ですが民事保存の手続きを踏めば、親子間であっても「接近禁止仮処分命令」が申し立てできます。
《民事保全とは》
民事訴訟の権利の実現のために行う仮押さえや仮処分のこと
勘当した子と家庭裁判所で争うことがあった場合には、裁判の過程で子が逆上し、危害を加えてくる可能性もあります。裁判所はそのような事態に備え、申立人の生命や心身への危険を守るために接近禁止の仮処分命令を発するのです。
ただし接近禁止仮処分命令は、相手方が申立人に対して著しく乱暴な言動・行動をとっていたり、すぐにでも発令しないと身の危険があるなどの必要性および緊急性がないと発令されません。
2.推定相続人の廃除を申し立てる
親が亡くなると子は第一順位の法定相続人となりますが、親が亡くなる前で相続がまだ発生していない段階では、子は推定相続人と呼ばれます。
もし推定相続人に著しい非行があったり、被相続人(相続財産をあげる人)に対して虐待や重大な侮辱行為をしていると認められた際には、推定相続人から除外することが可能です。
推定相続人の廃除をするには家庭裁判所の審議が必要で、そう簡単に認められるものではありません。
しかし勘当したくなるほどの経緯があった子であれば、推定相続人の廃除が認められるほどの問題を起こしていた可能性は十分にあります。
推定相続人の廃除イコール勘当の認定ではないものの、家庭裁判所が相続廃除を認めれば、親と子が縁を切った事実が対外的にも認められやすくなります。
また推定相続人から除外する方法としては、相続廃除以外に相続欠格という制度も用意されています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
勘当の前に第三者をはさんだ話し合いがおすすめ

ここまでは親が子を勘当する影響や対策について解説してきましたが、本来であればどんな親でも可愛い子を勘当までしたくはないでしょう。
今回の記事は勘当を推奨するものではありません。ですから、子に対して何か許しがたい事情がある人や、子との仲がこじれて修復が難しくなっている人には、まず勘当の前に関係修復の努力をはかることをおすすめします。
親族間で紛争が起こり、当事者同士での解決が難しい状況になったときでも、冷静な第三者が間に入ることにより解決できるかもしれません。
家庭裁判所は親族間の争いを解決するために、親族関係調停の調停委員会が双方の言い分を聞いて解決案を提示してくれます。紛争中の親子が顔を合わせる心配がないため落ち着いて話ができますし、いきなり暴力等に訴えかけられる恐れもありません。
勘当は最後の手段です。自分たちだけで解決が難しい場合には家庭裁判所や第三者の助けを借りて、最後まで勘当を回避する努力をしてください。
まとめ

今回は、親が子を勘当することについて解説しました。
勘当は簡単にできることではありません。しかし、愛する子を勘当したいと思うまでに至った親の気持ちや苦しみは、他人では測り知れないものがあります。
勘当の原因を早期に解消する努力をしつつ、それでも我慢ができなくなったときには、切っても切れない絆を自分の意思で断ち切りましょう。
ライター紹介 | 杉田 Sugita終活カウンセラー2級・認知症サポーター。父母の介護と看取りの経験を元にした、ナマの知識とノウハウを共有してまいります。
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